「……っていう夢をここ何日か連続で見たんだよな」
十月三十一日深夜の廃鉱山。俺の隣、岩肌に背中を預けたエイリアン――のきぐるみを着た暦が言った。
吸血鬼、狼男、悪魔。西洋生まれの有名なのモンスターたちだ。そんな夢を見るだなんて。
「暦、そんなに今日楽しみだったの?」
今夜のクレイジーロックはハロウィーンパーティー。もちろん愛抱夢の発案だ。仮装がドレスコード、普段から派手な格好が好きなSに集まる人たちも、今日は思い思いにモンスターとして着飾っている。俺や愛抱夢は吸血鬼、あっちに見えるジョーは多分狼男(ゴリラが獣の仮装かって言われてた)ミヤは今日はいつもの猫じゃなくて小悪魔の尻尾を付けていた。まさに暦の見た夢はハロウィーン仮装定番のラインナップだ。
「自分ではそんなつもりなかったんだけどな……」
どうしてもっつーからドンキの宇宙人着てきただけだし。暦は乗り気じゃなかったらしい。
「でも頭のどこかで考えてたのかも。なんだっけ、記憶の整理?みたいな感じなんだよね、夢って」
夏休みが終わる頃から街はハロウィーンに染まりだして、どこを歩いてても目に入るありさまだった。ドープでだってここ二週間くらいは店内にゴーストやジャック・オ・ランタンが踊っていたし、岡店長はスケッチーに魔女の帽子とケープを着せていた。
日常的なインプリンティングが夢に影響したのかもしれない。そんな深層心理にも俺が登場してるって嬉しいな。そう思って暦を見ると、腕を組んで唸っている。
「それもあると思うんだけどさ、完全にゲームとかの世界みたいな悪魔のはともかく、吸血鬼のとかは不思議じゃね?いつもの俺たちが化物として生きてるって混ざり方、なかなかしなさそうっつーか」
シンデレラの夢を見たって言う暦の想像力なら夢の中で何を考えててもおかしくないと思うけど。そうは言わずに黙ってうなずく。
「だから……もしかしたら、どっかにいる別の俺たちを見たのかもしんねえじゃん。パラレルワールド?みたいなヤツ」
SFによく出てくる話だ。ほんの少し違う選択をした俺たちがいる世界が、選択肢の数だけ存在してる。その中には、元々人間じゃない種族で、だけど今の俺たちと同じ選択をした世界があるかもしれない。暦が言ってるのはそういうことだ。
暦の横顔を見つめる。何も言わずにずっと見つめてると、居心地悪そうに、照れくさそうに、暦が俺の方を見る。
「……なんだよ」
「暦って結構ロマンチストだよね」
「は!?」
夢を見てパラレルワールドの自分たちと繋がってるなんて考える人って、なかなかないと思う。やっぱり暦は俺の想像を超えてくる。
「だとしたら、俺が吸血鬼な世界でも、暦は俺に大事なものをくれるんだね」
俺がそういうと、暦はぐっと息を詰めて目をそらす。
「変に聞こえる言い方すんな」
何が変なんだろう。
「恋人になってる世界もあるんだね」
「だからさぁ……なんかすまん」
謝ることないのに。
「他のどんな世界でも、隣に暦がいたらいいな」
日常は選択の連続だ。その数だけ、無数のパラレルワールドがあるのかもしれない。でもきっと、どの俺だって、暦が一緒ならそれだけで幸せだ。
「でも、同じ人間で、一緒にスケートできる俺たちが一番いいな」
だろ?笑いかければ、暦は目と口をを丸く見開いて、少し眉を下げて、それからひまわりみたいに笑う。
「だな!」
てのひらを合わせる。拳をぶつける。ゆるくした拳をもう一度ぶつける。
いつもと同じ俺たちでいい。いつもと同じ俺たちがいい。
今が、こんなに輝いてる。