#kuazaxmas2023

 だって、恋人たちの日なんでしょ?

 今夜は恒例の寮のクリスマスパーティーだ。臣さんや綴さん、カントクが作ったごちそう、兄ちゃんと椋のお気に入りのお店のデコレーションケーキ。みんなでのプレゼント交換に、至さん主催のゲーム大会。実家で家族と過ごすクリスマスもあったかくて大好きだけど、寮のみんなとのクリスマスもすっごい好きだ。
 だけどさ、椋の漫画とか太一さんの雑誌を見てると、クリスマスにはもっと別の特別な意味があるらしい。それを意識しちゃったら、オレだってちょっとくらいそういうクリスマスに憧れちゃったりする。
 だって、あの日のオレの言葉に頷いてくれてから、初めてのクリスマスなんだから。

 学校帰り。駅を出てから、ちょっと遠回りしない?って、寮とは反対の方向に莇を連れだした。莇は突然の提案に不思議そうにしながらも、オレの隣を歩いてくれる。なんでもないことだけど、今莇が隣にいる、それだけでちょっとくすぐったくてうれしい。
 遠回りって言っても、別に目的があるわけじゃなかった。ただ、寮に帰ったらみんなのクリスマスパーティーだから。もちろんそれもすっげー楽しみなんだけど、もうちょっと、大好きなかわいい恋人と――莇とふたりだけでいたかっただけ。

「……ってことがあってさー……莇?」

 ちょっとだけ、ふたりでいる時間を伸ばしたかっただけ。だから、いつもみたいになんでもない話を続けてたけど、なんだか莇の反応が鈍い。でも、この感じは体調が悪いとか何か悩んでるとかでもない。それがわかるくらいには長い付き合いだし、莇のことならよく見てるから。

「……なんかあった?」

 首を横に振って、少し俯き気味になった莇の顔を覗き込もうとする。きれいな黒髪に遮られて表情はよく見えない。だけど、ほんのちょっとだけ、いつもより顔が赤いのがわかった。かわいいな、寮の部屋でふたりだけになって、オレがすきだよって言ったときみたい。――あれ?

「…………あざみ?」
「……なんだよ、さっきから」
「あのさ、オレの勘違いだったらひっぱたいてくれていいんだけど」

 もしかして、照れてる?
 なんて。かわいい色をした頬にそっと触れながら尋ねる。あわく色付いていた頬はみるみるうちに赤みを増して、一段とおいしそうな色になった。触れた肌が熱い気がするのも、オレの手が冷たいからだけじゃないのかもしれない。

「……え、ほんとに?」

 もしかして、って、期待で口にしてみただけだった。寒いからかもしれなかったし、そもそも照れる理由なんて莇にはないはずだ。なのに、なんで。

「……だって!」

 オレの手を振り払いながら莇が声を荒らげる。オレをにらみつける緑色は不機嫌そうだったけど、顔は赤いし、口元はちょっと尖ってて――まるで、拗ねてるみたいな。

「……お前が、遠回りしたい、なんて言うから。……なんか、したいのかと思って」
「なんかって?」

 期待は、さっきよりは確信に近くなっている。だけど、莇の口から聞きたかった。だって、あの莇だよ?そういう話題が苦手で、すぐ真っ赤になって怒ったり逃げ出しちゃう莇が。
 今も真っ赤にはなってるけど、それでもオレの前にいてくれる。ねぇ、それがどうしてか、教えてよ。

「だから……」

 オレの大好きな緑色がまっすぐに見つめてくる。すこしだけ甘くうるんだ瞳に捕まったオレに、かわいい人が言う。

「恋人たちの日……なんだろ、クリスマスって」

 お前のことだから、なんか、って思って。それで遠回りって言われたから。けど、ほんとに遠回りするだけみてーだし。
 言い訳みたいに言い募る莇の言葉は、半分くらいは頭に入ってこなかった。でも、とってもかわいいことを言ってるってことだけはわかる。
 だって、莇も期待してくれてたってことでしょ?クリスマスって恋人の日だから。オレが恋人っぽいことしたがるんじゃないかって。ドキドキしてくれてたんだよね?

「……オレ、ほんとに遠回りしてちょっとでもふたりっきりでいたかっただけなんだけど」
「なっ」
「じゃあ」

 投げ出された手を両手で握る。寒い中手袋もしてなかったせいで冷たいけど、すべすべしてて綺麗な手だ。きゅっと握りしめた手をそっと開いて、指を絡めて手をつなぐ。少しだけ震えた莇の肩にオレの肩をぶつける。

「……もうちょっとだけ、寄り道しよっか」

 いつも寄り道する公演は、人気がなかった。ちょっと好都合かも、なんて思いながらベンチに莇と二人、隣り合って座る。野ざらしのベンチは冷たくて、身体の温度が下がった気がした。

「……あ!なんかあったかいもの買ってこようか!」

 すぐそこに自販機があったはず。そう言って立ち上がろうとしたオレの手は、すごい勢いでベンチに押さえつけられた。その熱い手が誰のものかなんて、考えるまでもなかった。

「……莇?」

 オレが行かないとわかったのか、オレの手を押さえつける手の力がゆるむ。さっきオレがしたみたいに、今度は莇の方から指が絡められて、さらさらの髪がオレの肩を撫でる。――莇が、身体を預けてきている。

「……」

 ぐりぐりと頭を押し付けられて、オレの心臓は忙しく暴れ回っていた。だって、かわいすぎる。莇が、あの莇が、オレに甘えてきている。ベンチの冷たさに感じた寒さなんて吹っ飛んで、暑いくらいだ。
 ねぇ、莇。もうちょっとだけ、欲張ってもいいかな。

「……莇」

 こっち向いて。
 慎重に両頬に触れて、莇がこっちを見るのを待つ。しばらくして、ゆっくりと顔が上げられる。きれいな緑色にオレが映る。あ、かわいい。
 ――そっと、額に唇を触れさせた。

「………………は……?」

 オレが離れた額に触れて、莇はもともと赤かった顔をますます真っ赤に染め上げている。
 やっぱ、ちょっと急だったかな。今は明るく終わりにしよう。そろそろ帰ろっか。そう声にしようとしたとき。

「……ス、されるかと思った」
「……え」

 額に触れていた莇の手が触れているのは、顔の下半分、つやつやでぷるぷるの、

「…………………………え、」

 え!?
 オレの都合のいい幻覚かと思ったけど、どうもそうではないらしい。だけど、本当に現実だなんて信じられない。
 だって、真っ赤な顔の、うるんだ瞳の、オレのだいすきな子が、恥ずかしそうにオレを見つめている。

「なぁ、くもん、」