『なにも欲しくなんてないよ』

140SS

 熱があった。心配してくれた母さんを仕事に送り出して、休む連絡をする。
 白くて明るい部屋は静まり返って、世界に俺しかいないみたいだ。
 まぶたを閉じて落ちるみたいに眠って――頬に触れる温度に目を開ける。赤色、夕焼け色。離れていこうとする手を握る。
 今だけは行かないで。他に何もいらないから。