クレイジーロックに行く前にハンバーガーショップで待ち合わせたその日、時間通りにやってきたのはランガだけだった。暦はちょっと遅れるって。そんな事を言っていた気がするけれど、僕はランガの服装から目が離せなかった。
もちろん、予想くらいできてたんだ。少し前に、服の話をしたばかりだったから。
いつも通りの夜だった。暦とランガが一緒に来るのもそうだし、ジョーとチェリーが並んで現れて小学生みたいな言い合いをするのもいつも通りだった。それぞれのファンが歓声をあげるのも。
少しだけ違ったのは、それを見ていたランガが僕に声をかけてきたことだ。
「あそこにいる子たちって、他ではあんまり見ない服装をしてるよね」
ここに来るのはそういう人ばっかりだと思うけど。そう思いながらも見れば、ランガの視線の先はチェリーファンのようだった。
「ああ、チェリーのファンだね」
「さっき応援してるからのを見てたからわかるけど。今見ただけでわかるんだ?」
「そりゃあ……」
顔がいい奴はファストファッションで様になるから悔しい。いつだったか暦が言っていたのを思い出す。きっと本当に無頓着なんだろう。
「みんな白をベースに淡いピンクとか紫を使ってるでしょ。それに桜のマーク。着物の袖みたいにアレンジしてる人もいる。チェリーのファンだから、チェリーの真似をしたいんだよ」
お洒落ってそういうところから始めるものじゃないか。へぇ、とランガは感心したように息をつく。
「それじゃあ……」
つぶやいて、ランガは何か考え始めたみたいだったけど、突然飛んできたヘリから仮面の男が降ってきたから、その時はそっちに意識を持っていかれてしまった。
そう、そういうことは確かにあった。ふと思い出したりもした。だから、ランガの服装が少し変わるかも、くらいの予想はできていたんだ。だけど。
「……それ、どうしたの」
無意識のうちに、口からこぼれていた。自分の声を聞いて、言ってしまったことを後悔する。だって、それこそ予想がつきすぎる。このあとのランガの反応が。
ランガは――予想通り――花がこぼれるみたいに笑った。
ランガが着ていたのは、少し袖の短いイエローのパーカ、制服みたいな黒いパンツ、赤いリストバンド、極めつけに変なモンスターの描かれたヘアバンド。それらが何を意味するかなんて考えるまでもない。
せいぜいパーカ程度だと思ってた。選んでもらった、くらい惚気られる覚悟はしてたけど、長さが足りてないってことは出所はひとつじゃないか。あの日見てた子たちだって、そこまでそっくりにはしないし、そのものなんてできるはずがない。
これで二人並ぶとしたら、そのファッションには別の名前がついてしまう。ちらほらできはじめている二人のファンが見たら卒倒してしまうんじゃないか。
――結局、ランガは遅れてやってきた暦が無理矢理着替えさせていた。口では怒ってても、ニヤけるのを隠しきれていなかったけれど。