こいつがこんな潰れるまで飲む奴なんて思わなかった。肩を貸して歩かせていた意識の曖昧な相棒を自分のベッドに落として俺はそばに座り込んだ。
ランガが成人して、初めての飲酒は母親と二人で。二回目は暦の家でがいいとありがたくご指名を受けて。うちの親が引っ張り出してきた、ごちそうの時にしか開けない特別な酒瓶を開けて、ちょっとだけ俺もご同伴に与って。確かに強い酒だったし、外国の血が入ってると強い酒弱い酒も俺たちとは違うのかも知れないけど。勧められるままに飲んだ結果、こいつは糸が切れるみたいにいきなり潰れた。
ベッドに転がした親友を眺める。こいつが泊まるのは初めてじゃないけど、白い肌をこんな真っ赤にして、高い体温で、ちょっと息が荒くなってたことはない。それが俺がいつも寝てるベッドだと思ったら、――長年の片思い相手がって思ったら、まぁ、落ち着かなくなるのも仕方ないわけで。
高二のときに出逢って以来、こいつはほとんど俺と一緒にいる。普段はボーッとしてるけど集中するとすげーかっこいいし、街中歩いてて見られることも多いし、恋人作ろうとしたら簡単なはずなんだ。それでも、こいつにそんな気配は欠片もない。今日だって、飲みの席でうちの親に「好きな人はいないのか」なんて絡まれて「いない」って答えてたし。
寝入りかけてる顔を覗き込む。頬に貼り付いた髪が厚そうで、指ですくって流してやる。触れた肌がやわらかい。赤くて熱くて少し湿っていて。口の中にたまった唾を飲み込む。
「好きなヤツくらいさっさと作れよなー…」
こんな無防備になるのが俺の前でだけだって知ってるから。俺といるのが一番楽しいって言うから。お前がそんなだから、俺は期待したがる気持ちを捨てきれないでいる。諦めきれなくなる。
薄く、青い瞳が覗く。心を読まれたみたいなタイミングでどきっとする。平静を装って話しかける。意識を逸らすみたいに、世話を焼こうとする。
「大丈夫か?水持ってくる?このまま寝ちまう?」
「……いるよ」
「へ?」
繋がらない会話に首を傾げると同時、気付いてしまう。これは俺の独り言への答えだ。
「好きな人はいないけど、大好きな人はいるよ」