はじめての

 一瞬前まで止まっていた熱い吐息が降ってくる。俺を気遣う声がいつもより低くかすれていて、それにすら全身があまくふるえてしまう。――からだの奥深くに暦がいる。
 内臓が圧迫されてくるしい。広げられた脚がいたい。だけどそれより、胸の中にあたたかいものがあふれて止まらない。すきなひととひとつになることが、こんなに満たされるなんて知らなかった。
 ――ぽたり、なにかが俺の頬に落ちてくる。ここちよさに閉じていた目を開く。いつも俺をあまやかす朝焼け色が落ちてくる。ぽたり、ぽたり。いくつも。たくさん。
 ―ーそっか、俺といっしょだ。暦もあふれてとまらないんだ。
 ふるえる声で名前を呼ばれる。その中にとけてるいっぱいのものに、ふわふわにとろかされてしまう。
 たいせつなひとの片手をとる。指をからめてきゅっとにぎる。ぬれた頬をつつんでひきよせる。うるんだ琥珀色に、俺の色がうつっている。
「だいすき」
 しあわせ。くちびるからもあふれだす。触れるだけのキスをする。数えきれないくらいのメープルシロップがこぼれてきた。