春から専門学校生の莇と黒猫の志太と飛脚の九門のパラレル設定。
続きません。
ある程度の身の回りのものは、俺自身と一緒に軽トラで運んでもらった。通販で新しく買ったものは日付指定してこっちに届くようにした。知り合いもいない土地、配達以外に来客があるはずもないから、インターホンの音にもカメラの確認もせずに玄関を開けた。そしたらどうだ。
「……志太?」
「お届けものでーす」
春風が吹き抜ける段ボールしかない部屋、進学を機に家を出た俺の新居を初めて訪れたのは、深緑の制服に身を包んだ十年来の悪友だった。
配達を始めたとは聞いていた。女手一つで兄弟を養う母親を支える志太は、幼いころからの夢だった役者として研鑽を積む傍ら、こうしたバイトを入れている。それにしても。
「お前の担当地域だったのかよ」
実家からのでかい段ボールを部屋の奥まで運んでくれた志太にスポーツドリンクを差し出しながら言う。ペットボトルを受け取った親友は玄関の壁にもたれて笑う。
「俺も伝票見てびっくりしたよ。まさか他にいる名前でもないだろうし」
「お前もな」
顔を合わせて笑い合う。勢いよく頭を傾けてスポドリを煽った志太は、それにしても、と俺の部屋を覗き込む。
「まだ家具とか家電とか全部じゃないよな。俺が持ってきたのだけでもないだろうし、たぶん今日明日の指定だろ?俺のとこになかったってことは
ヤマトじゃないのかな」
「通販買うときわざわざ配送業者見てねぇしな……」
こいつが来るとなれば、これからは嫌でも意識しちまうだろうけど。
「佐川か郵便局か……佐川だったら九門が来るんだな」
「……何?知り合い?」
流れからしたら人の名前だろうけど、聞いたことのない響きだ。志太は中身が半分くらいに減ったペットボトルを揺らす。
「そ。前倉庫のバイトで一緒だったヤツ。ティガーズファンで気が合うんだ」
「へー……」
「面白いヤツだからさ、会ったら話してみろよ。こうやって飲み物やったりしてさ」
そんなことを言い残して志太は配達に戻って行って。
「面白いヤツ、なぁ」
妙にツボが浅い志太の言うことだから、どうだか。そんなことを考えながら荷解きをする俺の耳に、本日二度目のインターホンの音が届く。今度はカメラに目を向ける。青の縞模様。志太が言ってた方の配送業者だ。
「……マジかよ」
インターホンの音を消して、玄関に向かう。ドアを開ける。緑色の空気と同時、目に飛び込んできたのは鮮やかな金色。
「お届けものです!」
ハンコください!
うるっせえ声。良いとは言えない第一印象を抱いたこのときの俺は、まだ知らなかった。
この金の目をした配達員と、それから長い付き合いになることなんて。