にょた百合姉妹2

にょた百合姉妹(語弊)第二弾(?)
百合っぽい幸ちゃん♀と莇ちゃん♀と九→莇♀と太→幸♀を含みます。
至さんファンの方ごめんなさい。

 朝から九チャンとスケートした休日、帰ってきた天鵞絨町で夕飯前の軽食にありつく。俺がホットドッグを受け取って先に買って待ってた九チャンのところに戻ると、九チャンは通りの向こうの人だかりを見つめていた。

「九チャン、どしたの?」
「あ、太一さんおかえり!多分ストリートACTなんだけど、こっからじゃよく見えないんだよね」

 近く行ってみていい?そう言う九チャンにもちろんと頷いて、ボードを挿したバッグを背負い直して通りを歩く。途中、何故か壁に寄りかかって満足げに俺たちの向かう方向を見る、見知った顔を見付けた。

「至サン……?」
「え、いたの?」
「なんか……なんだっけ、後方彼氏面?みたいな顔してたッス」

 彼氏ではないと思うけど、ストリートACTはMANKAIカンパニーの誰かなのかもしれない。もうじき暗くなるし、高校生組の引率として来たとか。だとしたら、九チャンはここにいるから、

「――あ!莇と幸だ!」

 俺の予想は当たったらしい。見れば確かに、そこにはカンパニーの紅二点、幸チャンとあーちゃんがいた。二人とも制服姿だ。よく見える位置に陣取って、二人の芝居を眺め始めて――俺たちは二人して言葉を失った。

『可愛い子……私のものになりなさい』

 緑髪の少女の細い指が黒髪の少女の顎にかかる。つい、と上を向かされた彼女は潤んだ瞳で息を吐き、もうすぐ鼻が付きそうな距離で見つめてくる緑髪の少女から逃れようとする。

『駄目です、お姉さま、どうしてこんな……』

 至近距離の顔はそのままに、緑髪の少女の腕が片割れの腰を抱き寄せる。のけぞる黒髪の少女に覆いかぶさるように抱きしめると、蠱惑的な目をした彼女は舌なめずりして湿っぽくささやく。

『知っていたでしょう?この別荘の化物の話。私、貴女をずっと待っていたの。ねぇ、ローラ、私と永遠を生きましょう……?』

 瞳に涙を貯め、恐怖に震えながらももがき、自称「化物」を拒絶する「ローラ」。しかし、その魔術的な瞳と人ならざる怪力に捕らわれた彼女は動けない。ついに、少女の首筋に化物の牙が迫る。

『……誰か、助けて……!いやーーーーーっ!!』

 ――時が止まり、しばらくして横に並んだ二人がお辞儀をする。終幕だ。

「MANKAIカンパニーでしたー。美しき化け物に捕らわれた少女の運命やいかに。今度こんな感じの吸血鬼ものの芝居動画上がるからよろしく」
「あざっした。ゴシックな世界観ってことで、衣装もメイクもこだわってるんで、そっちも楽しみにしててくれたら嬉しい」

 そうやって告知をする幸チャンとあーちゃんはいつもの二人だったけど、俺はさっきまでの二人の芝居から戻ってこられないでいた。俺はそっと隣を伺う。

「……太一さぁん」

 目が合った九チャンは、ちょっと赤くなった泣きそうな顔で俺を見つめてきた。やっぱり、俺と同じ状態だ。つまり、好きな子の芝居の出来に、すっかりダメになってしまっている。

「あんな、かっこいい幸が、押される莇がかわいくて、」
「わかるよ九チャン、幸チャンめっちゃかっこいいのにかわいいしし、あーちゃんいつもあんななのにあんな演技してびっくりしちゃうよね、なんであんな、」
「目覚めてしまったようだな少年たちよ……」
「「キャーーーーーーーーーーー!!」」

 突然背後から肩に置かれた手に飛び上がる。恐る恐る振り返れば、そこにはさっき人だかりの中で見かけた至サンがいた。

「い、至さ、」
「至さんプロデュース、カーミラベースの百合風味ストーリーでした。最近見つけたこんな感じのレトロホラゲがすごい良くてさ、つい二人に声掛けちゃった」

 つまり、至サンに頼まれて幸チャンたちはストレートACTをしていたらしい。二人ともよく引き受けてくれたな、と考えていると。

「九門に太一さん、叫び声目立ちすぎ……」
「あ、インチキエリートもいるじゃん。どう?かわいかったでしょ?」

 俺たちに気付いていたらしい二人が声を掛けてきた。演技の感想を聞かれた至さんは無言でサムズアップしている。

「当たり前。じゃ、本番動画のためのフリルマシマシ衣装の生地代、あとご飯と新作いくつか買ってもらうから」
「こっちも。今度のコレクション、欲しいブランド絞りきれてなかったんだよな。ツラも貸してくれるってことで助かる」

 そりゃ、この二人がタダでやるはずなかったんだ。

「……で、アンタたちはスケボー帰り?さっき監督から買い出しのLIME来てたから、インチキエリートの車で回ってから帰るよ。乗ってくでしょ?」
「あ、うん」

 至サンの車を我が物みたいに扱う幸チャンに思わず頷いてしまう。多分車がある方にだろう、歩き出す二人を追って、九チャンと並んだまま後を追う。いまだに頭が戻ってこない俺たちに、至サンが話しかけてくる。

「ごめんね、一応は劇団の活動にしないと左京さんの許可下りなかったんだ。今度の動画は期間限定の予定です。もっと可愛いあの子らはお前らだけのもんだからさ」
「「!???!?」」

 同時に至サンを見た俺たちの頭を両手で撫でて、至サンは一人俺たちを追い抜いていく。衣装サマとメイクサマに追いついた彼は、何やら小突かれながら歩いていく。

「………………びっくりしたぁ」
「…………オレも……」

 鋭い大人たちに気付かれてないと思ってたわけじゃない。それでもなんだろう、ああいう芝居にちょっとクるものがあったことまで察されるのは、さすがにいたたまれない。

「ダメだーオレ今日夢に見る……莇の顔見れない……」

 頭を抱えながら歩いていた九チャンがこっちを見る。なんだか生暖かい目で、九チャンは俺に言った。

「明日の朝、洗面所で会ったら、一緒に言い訳作ろうね」

 夢に見ると言った九チャン。そこから明日の朝までにどうなるかと考えたら、言ってる意味がわかってしまう。多分、とんでもないことを言われている。なのに。

「……うん」

 本当に情けないことに、俺は頷くことしかできなかったんだ。

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幸と莇の百合となればわんこたちを狂わせる選択肢しかなくないですか?