SK∞

140SS

『君に預ける』

少しのミスで大怪我に繋がるから、最後の整備は自分でやる。テレビで見たスケーターは言っていた。  自分での整備も覚えさせたけど、あいつは俺に整備をねだる。作ったのが俺だからとか気持ちの面もあるんだろう。  でもそれだけじゃない。俺はあいつ自身を委ねられてる。時々思い知ってしまう。
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『うつくしい古傷』

肩甲骨は翼の痕、とは何の言葉だっただろう。大切な人の背中を見て、あまりの愛しさに天使を思ったに違いない。その気持ちが少しわかる。  いまだ薄く残る背中のそれは、痛々しいけどきっと彼の誇りだから。存在そのものが愛おしい彼の大事な一部だから。  だから俺は祈りを込めて、その傷痕にキスをする。
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『自分だけ知ってればいい』_L

学校での暦は目立つ。誰でも顔か名前とスケボーバカな問題児だって知ってる。話すと明るい優しいヤツって事も。でも、新作パートを見るきらきらの目とか、工具を扱う真剣な表情とか、滑ってる時の楽しいでいっぱいの笑顔とか。スケートに夢中なかっこいい暦を知ってるのは俺だけでいい。俺だけがいい。
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『自分だけ知ってればいい』_R

“スノー”はSの有名人だ。完成度の高い高度なトリックも情人離れしたスピードも無茶に思える大胆な戦い方も、見るヤツを惹きつけてやまない。でも、大半のヤツは知らない。失敗して派手に転ぶ姿も、悔しそうに眉を寄せる幼い表情も、初めてキメた瞬間の花咲くみたいな笑顔も。全部、俺だけのもんだ。
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『頬に落ちる雫』

頬に落ちる雨に足を速めて、目的地に滑り込む。俺の気配が増えた相棒の部屋、濡れた服を脱ぐ間にベッドに倒される。 シーツが濡れると咎めれば、雨はあの日の俺の決闘を思い出して興奮するなんて熱く耳元に囁かれて。 今から汚すなら濡れるくらいいいか。開き直って、覆いかぶさる身体をひっくり返した。
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『先着順』

偶然会ったお母さんと双子たちに誘われて家にお邪魔する。部屋へ駆け出す二人はお兄ちゃんに甘えたいらしい。 二人の後を追ったリビングに、妹を両手に抱いた親友の姿。 正直双子たちが羨ましい。でも腕は二本しかないし、大人げない。 気付いた彼が俺を見る。呼ばれるだけで嬉しいなんて重症だと思った。
Becaue I love you

Because I love you(+) -pure-

――月が、輝いている。  窓から顔を出して位置を確認しながらハンドルを回す。縁石にぶつかる感触に動きを止め、ギアをパーキングに入れてサイドブレーキをかける。キーを回してエンジンを切ったところで、俺はハンドルに突っ伏した。
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Because I love you(5) -…years later-

スケートをやりたい、って本当に思うきっかけってなんだろう。  一番初めは、ちょっとの興味だと思う。テレビで見た選手がかっこよかった。好きな芸能人が趣味だって言ってた。友達に誘われたから。そんなきっかけから、本当にパークに来たり、ボードを買ったりする人間はほんの一握りだ。
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Because I love you(4) -Sunday,20th,march 12:34 NewYork-

ぴこん。片耳だけ付けたワイヤレスイヤホンがスマホへの通知を告げる。一旦スケートを止めてポケットを探る。画面の表示を見れば、ランガからのメッセージ。 『もうすぐ』  通知だけでそれを見て、アプリを開かないまま画面を暗くする。スマホを仕舞い直して、再びスケートを漕ぎ出す。両足をデッキに乗せて、ちらりと横を眺めた。
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Because I love you(3) -Monday,7th,February-

日本にいるスケーターは、競技人口で四千人くらい、愛好家で数えると百万人近くになるらしい。人口の約八パーセント、クラスに二、三人の計算とすると、想像より多い。高校では俺とランガ以外のスケーターは知らなかったけど、ボードを持ってるだけくらいのヤツはいたのかもしれない。
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Because I love you(2) -Wednesday,22nd,December-

沖縄にいた時は、朝帰りなんて当たり前だった。なにせSのビーフは午前零時にスタートする。あの熱狂を楽しんで、クレイジーロックを下ってこっそりベッドに戻る頃には、空が白み始めてる事も珍しくなかった。その分授業中にはよく寝てたけど、仕事してるともなればそうはいかない。
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Because I love you(1) -Sunday,7th,November-

好きな事を仕事にすると嫌いになるって話があるらしい。けど、俺は多分そんな事はない。一日中だって滑ってられるし、デッキの組み方考えて夜を明かせるし、カッケー動画見てるだけでもあっという間に時間が過ぎる。誰かと一緒ならなおさらだ。日に日にもっと好きになっていってる気さえする。
SS

はじめての

一瞬前まで止まっていた熱い吐息が降ってくる。俺を気遣う声がいつもより低くかすれていて、それにすら全身があまくふるえてしまう。――からだの奥深くに暦がいる。  内臓が圧迫されてくるしい。広げられた脚がいたい。だけどそれより、胸の中にあたたかいものがあふれて止まらない。すきなひととひとつになることが、こんなに満たされるなんて知らなかった。  ――ぽたり、なにかが俺の頬に落ちてくる。ここちよさに閉じていた目を開く。いつも俺...
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さわるだけじゃたりない

唇にやわらかいものが触れている。羽みたいに軽い触れ方がくすぐったくて唇をすり寄せると、ひそめられた笑い声とあったかい空気、それから清潔な匂いが降ってくる。ひとつ、まばたきをする。  初めに目に入ったのは、凪いだ海の色。そこから瞬きを何度か。俺の目の前に転がってるのは俺の大事なヤツで、唇に触れていたのは白い指だと知る。人差し指と中指の二本。触れるか触れないかでなぞったかと思えば、ぎゅっと真ん中に押し付けてきたり、間に爪...
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兄の恋人

そういえば帰ってきてるんだっけ。兄が寝起きしていた部屋に電気がついているのが見えて、わたしはそっと近付いた。  兄が家を出て恋人と暮らし始めたのは二年前。いくつも貼られていたポスターなんかは新居に持って行ったみたいで兄の気配は薄くなっているし、妹たちの物が増えてきたこともあって半分以上物置になっている。でも兄が使っていたままのベッドや机が残っている。多分、今夜もここに泊まるんだろう。開いたままの引き戸を覗く。  いつ...