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『僕を呼ぶ声』

朝、いつもの待ち合わせ場所に来た時。  授業中、微睡んでたのに声を掛けた時。  昼休み、動画を覗き込んだ時。  放課後、サイコーなトリックをキメられた時。  夜、熱を分け合って見つめ合う時。  どんな時でも、その唇から紡がれるたびに、自分の名前がもっと好きになっていくんだ。  それから、おまえのことも。
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『あたためてください』

「チンして食えよ」  帰りが零時を超えるとわかってた俺に恋人が作り置いてくれた夜食。ポテトにソースとチーズ、自分は食べないのに俺の好きな物を作ってくれててきゅんとする。  その分少し心が冷える。ここに彼がいないから。  好物よりも、身体と心ををお前とあっためたい。夜食をしまって寝室に向かう。
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『愛情表現』

通学路の丁字路でさ。声掛けると俺の事じっと見て来たり、頭とか喉撫でても大人しく擦り寄ってきてさ。……朝から何してんのって、変な事言ってるか?  でさ、これ、懐かれてるよな?ミヤ、猫の愛情表現とか詳しいだろ?  ……なんで叩くんだよ!?惚気と勘違いさせる方が悪いって、お前何の話してんの!?
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『おかしくなりそう』

まだ慣れない南の島の炎天下、夢中で滑っていた俺は倒れた。日陰に寝かされ、額に濡れタオルを置かれ、扇いだ風を受ける。  迷惑かけてごめん。くらくらする中で言うと、俺にならいくらでも、と甘やかす。  もう離れられないなと零す。離れる気あんの?本気の声が返ってくる。  何だよそれ。暑さよりお前に、
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『君が微笑む』

クラスのグループのアルバムには教室で撮った写真が納まっていて、俺も何枚も写っている。  時系列で見て気付くのは親友の表情だ。仏頂面がだんだん柔らかくなり、花咲くみたいな笑顔になる。――俺を見る時だけ。  これクラスのヤツ全員見られるんだよな?照れより優越感が勝つから俺もどうしようもない。
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『ゆびきりげんまん』

前にさ、約束って俺が小指出したとき、大人はこうするんだよってDAPしたよね。  でも指切りって「嘘ついたら針千本飲ーます」って続くだろ。破ったときの罰がないと代わりにならないなって思って。  だから何か決めないか?約束破ったら一生かかっても償うって意味の何か。  ……いるだろ?一生、一緒に。
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『力のない抵抗』

据え膳って言葉を聞いた。そうなろうと思った。  押し倒して上に乗って、額を付けて見つめる。触れた胸に感じる鼓動は速い。なのに固まったまま何もしてくれない。  俺の好きにするけど、いいの。身体を捩って諫める言葉を吐いてくるけど、本気なら跳ねのけられるって知ってる。  なぁ、もう諦めて襲ってよ。
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『精一杯の笑顔』

あの日船の上で見た視線によく似ていて、でも全然違うってすぐにわかった。ぼんやりした「いいな」じゃなくて、もっとまっすぐな「すき」。  わからないはずない、俺が暦を見る視線と同じだったから。  叶わないって知ってた、だから平気なんだ。でももう少しだけ待って。ちゃんといつもみたいに笑うから。
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『とっくに知ってるよ』

出逢った頃から好きだった。宅飲みで潰れた親友が口走る。言った当人は夢の中。  多分言う気はなくて、墓まで持ってくつもりだったんだろう。俺と同じで。  ずっと前から知ってた。伝える気なんてなかった。相棒の距離がいいって思ってたのに。  色付いた白い肌に喉が鳴る。聞いたらもう、欲が出て仕方ない。
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『残像』

一人で入ったシフトのあと、石畳の表通りから曲がって細い路地を通って行くことがある。チェリー、もとい桜屋敷先生の書庵の裏。  目印も何もない通りの途中で立ち止まって、しゃがみ込む。目を閉じる。風とウィールの音を思う。  まぶたの裏に浮かべるのは、俺の上を跳ぶ姿。時々、思い出したくなるんだ。
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『手を出したい』

先のことはわからないって言うけど、これだけはわかるよ。未来の俺もずっと暦が好き。この気持ちは絶対に変わらないって確信がある。  今の俺は今の暦が好きだ。この先ずっと、無限に一緒にいるとしても、今の俺たちにしかできないことをいっぱいしたい。  今すぐ触れたい。触れられたい。全部。なぁ、暦。
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『遠くへ行きたい』

例えば一緒に住むとして、個室は要るから2DKにはしときたいし、食費もかかるしスケートなんてもっとだろ。そのためにもさ、稼ぐってなったら都会、大阪とか東京とか、もっと遠くに行きてえなって思うことはあるよ。  お前がすごいから。俺自身が、自信を持ってお前の隣にいられるようになりたいから。
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『煽らないでくれよ』

スタートにはランガにミヤ、何故かチェリー、何か知らない奴ら。画面は「レキ争奪戦」、賞品は俺を好きにする権利らしい。ラブホに縛られ自由を奪われた俺は虚しく出走者を眺める。  沿道から高い声。スノー頑張って。レキといちゃいちゃして。本人はやる気に満ちて大きく頷く。頼むからこれ以上そいつを
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『もうひとつちょうだい』

旅行の準備をしてた時だ。相棒はシャンプーやボディクリームを詰めた入浴・就寝セットを確認しながら声を上げて、もうひとつちょうだい、と俺の後ろを指さした。  手元には四枚綴りの正方形が三連、俺の後ろはそういう物のストック棚。  旅先でどんだけするつもりだよ。少し呆れつつ、俺は棚に手を伸ばす。
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『思わず漏れた声』

ドリンクを煽る喉がごきゅりと動く。ヘアバンドが吸いきれなかった汗が日に焼けた首筋を流れる。運動後の肌は上気して普段よりすこし色付いている。赤い唇と舌は飲み干したドリンクで濡れている。  おいしそう。  声に出してしまったと気付いたのは、聞こえてしまったらしい年下のプロの表情を見てだった。