140SS 『膝枕』 目を開けた先に見える、俺を覗き込む琥珀色。午前最後の野外体育、暑さにふらついた俺を寝かせてくれてた相棒。昼も食べずに体操服を着替えもせずに。そんなところも好きだ。 でももう動けるし、ご販食べて元気出さないと。彼を枕にするなら膝より腕がいい。万全でなくちゃ、その前の事もできないから。 2021.10.27 140SS
140SS 『妖しき月夜』 狼男っているだろ、なんて言うんだ。満月の晩だけ獣になるモンスター。月のせいだから忘れてくれって、そう言うんだ。 でも、月が明るいからお前の顔もよく見えたよ。俺を組み敷いた時の深さを増した琥珀色、舌が離れた時の怯えたような色。 なぁ、本当のお前を教えてよ。怖がらないで、俺が一緒だから。 2021.10.27 140SS
140SS 『誘う視線』 あいつのビデオパート撮ろうって話になった。だから俺は新調したスタンドでスマホ構えて、十何回目かのあいつの滑りを動画に収めようとスタンバイしてたんだ。 なのに俺を見るあいつの瞳は、一人のパート撮るより俺と滑りたいって語ってて。 お前とのペアパート?そんな楽しそうな事、乗るに決まってる。 2021.10.27 140SS
140SS 『振り向きもせずに』 夢中になったら他のもんなんか見えなくなるって、誰に何言われても意見変えないヤツだって、そんなのよく知ってるよ。 いつか大事なもん見付けたら俺のことなんて振り向きもしないでそっち行っちまうんだろうなって。 だからさ、それまででいいんだ。お前の一番は俺のもんだって、思わせてくんねーかな。 2021.10.27 140SS
140SS 『もしかして、妬いてる?』 いくら仲良いっつったって、普通友達同士でおかしいだろ。お前が誰とどこで何してようが、俺は何も言えない。 そりゃちょっとはつまんねえけど、それは俺が勝手にそう思うだけでお前が行動変える事じゃねえし。 なのになんでそんな嬉しそうなんだよ。俺がかっこ悪いだけなのに。勘違いしそうになるだろ。 2021.10.27 140SS
140SS 『がらがらと崩れる』 ブロックを組んだタワーから順番に抜いて重ねて倒したら負け。有名なゲームが押し入れの中から出てきたら当然勝負になって。 不意に重なった視線はやたら色っぽくて、勝ったら好きにしていいなんて言ってきて。 ひっかからねえよ。俺のその言葉が強がりだと証明するみたいに、傾いたタワーが音を立てた。 2021.10.27 140SS
140SS 『隠しきれない』 アンカットデッキ、整備オイル、袋麺、スキン、冷凍フライドポテト、チーズ、ルーブ、カラースプレー、他にもいっぱい、二人で一緒にやりたいことの準備。 久しぶりに連休が重なるのが楽しみで、たくさん買い込みすぎてしまった。 浮かれすぎで恥ずかしいけど、大荷物も俺の気持ちも全然隠せそうにない。 2021.10.27 140SS
140SS 『あと5秒』 目の前にはUniqueな寝顔。一度家に帰ってからお邪魔した彼の部屋、俺が来るまでの短い間に、彼は夢の世界へ旅立ってしまっていた。 呼んでおいて俺を置いていくんだから、少し仕返ししてもいいと思う。例えばあと30秒で起きなければキスしちゃうとか。 30、29、28、5、4、3、2、いち、 2021.10.27 140SS
140SS 『はじめてだったのに』 『初恋は叶わない』。つけっぱなしにしてたテレビから聞こえてきたそんな言葉を、俺はくだらない迷信だと思った。 だけど、隣の恋人は納得したみたいに頷いている。それがすっごく面白くない。 だってそれってつまり、彼の初恋は俺じゃないってことだ。 俺の初恋は叶ってるのに。俺は正真正銘、この恋が、 2021.10.27 140SS
140SS 『君に預ける』 少しのミスで大怪我に繋がるから、最後の整備は自分でやる。テレビで見たスケーターは言っていた。 自分での整備も覚えさせたけど、あいつは俺に整備をねだる。作ったのが俺だからとか気持ちの面もあるんだろう。 でもそれだけじゃない。俺はあいつ自身を委ねられてる。時々思い知ってしまう。 2021.10.27 140SS
140SS 『うつくしい古傷』 肩甲骨は翼の痕、とは何の言葉だっただろう。大切な人の背中を見て、あまりの愛しさに天使を思ったに違いない。その気持ちが少しわかる。 いまだ薄く残る背中のそれは、痛々しいけどきっと彼の誇りだから。存在そのものが愛おしい彼の大事な一部だから。 だから俺は祈りを込めて、その傷痕にキスをする。 2021.10.27 140SS
140SS 『自分だけ知ってればいい』_L 学校での暦は目立つ。誰でも顔か名前とスケボーバカな問題児だって知ってる。話すと明るい優しいヤツって事も。でも、新作パートを見るきらきらの目とか、工具を扱う真剣な表情とか、滑ってる時の楽しいでいっぱいの笑顔とか。スケートに夢中なかっこいい暦を知ってるのは俺だけでいい。俺だけがいい。 2021.10.27 140SS
140SS 『自分だけ知ってればいい』_R “スノー”はSの有名人だ。完成度の高い高度なトリックも情人離れしたスピードも無茶に思える大胆な戦い方も、見るヤツを惹きつけてやまない。でも、大半のヤツは知らない。失敗して派手に転ぶ姿も、悔しそうに眉を寄せる幼い表情も、初めてキメた瞬間の花咲くみたいな笑顔も。全部、俺だけのもんだ。 2021.10.27 140SS
140SS 『頬に落ちる雫』 頬に落ちる雨に足を速めて、目的地に滑り込む。俺の気配が増えた相棒の部屋、濡れた服を脱ぐ間にベッドに倒される。 シーツが濡れると咎めれば、雨はあの日の俺の決闘を思い出して興奮するなんて熱く耳元に囁かれて。 今から汚すなら濡れるくらいいいか。開き直って、覆いかぶさる身体をひっくり返した。 2021.10.27 140SS
140SS 『先着順』 偶然会ったお母さんと双子たちに誘われて家にお邪魔する。部屋へ駆け出す二人はお兄ちゃんに甘えたいらしい。 二人の後を追ったリビングに、妹を両手に抱いた親友の姿。 正直双子たちが羨ましい。でも腕は二本しかないし、大人げない。 気付いた彼が俺を見る。呼ばれるだけで嬉しいなんて重症だと思った。 2021.10.27 140SS