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SK∞

特別

そういえば、二人だけの決勝戦をやった時は、空がうっすら明るくなってきてたっけ。  ウィールの音だけが響く中、ふと考えた。毎日過ごしてる街だけど、今は目を凝らさないとどこだかわからないくらいに真っ暗だ。日が長い季節とはいえ、夜明けまで多分まだあと数時間。一日で一番暗い時間は今くらいなのかもしれない。 「暦?」  並んで滑るランガが俺を呼ぶ。ちょっとぼーっとしすぎてたらしい。暗いって考えてたとこなんだし、気を付けねぇと。...
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2021-2022年越し創作

スケートの日々の手入れは割と簡単だ。泥落とし、ナットやウィール各部の緩み確認、あとは時々オイルとか。俺の場合はギアの交換なんかはガレージでやるからだいたいの道具はそっちに置いてあるけど、普段の整備用のオイルや古布とか簡単なものは部屋にも置いている。そうしてると時々、整備しようと思った方には中身が残ってないオイルしか置いてなかったってこともあったりするわけで。
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サイコーな休日のために!

「冗談じゃ、ねぇ、って」  絞り出すように言う暦の荒い息が唇にかかる。強い琥珀色がまっすぐに俺を射抜いてくる。顔も、首も、肩までも赤い。何も着てない上半身は少し湿ってる。  帰ってきたばっかりの俺を玄関のドアに押し付けて――なんだっけ、カベドンってやつだ――暦は俺の肩に額を埋めてくる。鼻をくすぐるいい匂いを感じながら、俺は暦に言われた言葉を思い返した。  だって、まさか、そんなに。    大学の学期末、テストは今日で...
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エピローグ

「……っていう夢をここ何日か連続で見たんだよな」  十月三十一日深夜の廃鉱山。俺の隣、岩肌に背中を預けたエイリアン――のきぐるみを着た暦が言った。
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悪魔×聖職者

若い悪魔祓いのくせに生気が薄いヤツがいるって聞いたからわざわざ寿命を貰いに来てやったんだ。なのに。 「暦」  山奥の集落、ヤツの管轄の小さな教会。俺はその聖職者に拘束されている。……正確に言うなら、腕の中に抱き込まれている。なんでこんなことに。
SK∞

狼男×人間

「今夜満月だから部屋に入ってくんなよ」  高校を卒業して一緒に暮らし始めた春、恋人は鶴の恩返しみたいな事を言った。
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人間×吸血鬼

「暦、おなかすいた」  高く抜ける秋空の下の屋上、菓子パンみっつと一リットル紙パックの牛乳と俺の弁当の卵焼きを胃に収めた相棒が言うそれは、もちろん空腹のことではなくて。俺はため息をつくふりをしながら学ランの袖をまくる。  これで何度目になるだろう、この綺麗な顔した吸血種に血を与えてやるのは。
SK∞

はじめての

一瞬前まで止まっていた熱い吐息が降ってくる。俺を気遣う声がいつもより低くかすれていて、それにすら全身があまくふるえてしまう。――からだの奥深くに暦がいる。  内臓が圧迫されてくるしい。広げられた脚がいたい。だけどそれより、胸の中にあたたかいものがあふれて止まらない。すきなひととひとつになることが、こんなに満たされるなんて知らなかった。  ――ぽたり、なにかが俺の頬に落ちてくる。ここちよさに閉じていた目を開く。いつも俺...
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さわるだけじゃたりない

唇にやわらかいものが触れている。羽みたいに軽い触れ方がくすぐったくて唇をすり寄せると、ひそめられた笑い声とあったかい空気、それから清潔な匂いが降ってくる。ひとつ、まばたきをする。  初めに目に入ったのは、凪いだ海の色。そこから瞬きを何度か。俺の目の前に転がってるのは俺の大事なヤツで、唇に触れていたのは白い指だと知る。人差し指と中指の二本。触れるか触れないかでなぞったかと思えば、ぎゅっと真ん中に押し付けてきたり、間に爪...
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兄の恋人

そういえば帰ってきてるんだっけ。兄が寝起きしていた部屋に電気がついているのが見えて、わたしはそっと近付いた。  兄が家を出て恋人と暮らし始めたのは二年前。いくつも貼られていたポスターなんかは新居に持って行ったみたいで兄の気配は薄くなっているし、妹たちの物が増えてきたこともあって半分以上物置になっている。でも兄が使っていたままのベッドや机が残っている。多分、今夜もここに泊まるんだろう。開いたままの引き戸を覗く。  いつ...
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酔言

こいつがこんな潰れるまで飲む奴なんて思わなかった。肩を貸して歩かせていた意識の曖昧な相棒を自分のベッドに落として俺はそばに座り込んだ。  ランガが成人して、初めての飲酒は母親と二人で。二回目は暦の家でがいいとありがたくご指名を受けて。うちの親が引っ張り出してきた、ごちそうの時にしか開けない特別な酒瓶を開けて、ちょっとだけ俺もご同伴に与って。確かに強い酒だったし、外国の血が入ってると強い酒弱い酒も俺たちとは違うのかも知...
SK∞

箱から星屑

夏の晴れた空が好きだ。どこまでも抜けていくような遥かな青、その中を風を感じながら滑るのが好きだ。高いところから風の塊の中を跳ぶ感覚、空や海と同じくらいきらきらした青、そんな好きなものが増えてからはもっと好きになった。  だけど沖縄の夏は雨の日も多い。クレイジーロックも開かないし、屋根のあるパークは閉まる時間も早い。今日だって空は厚い雲に覆われて、今にも泣きだしそうだ。晴れてる日ならもっと遅くまで滑ってる時間に、俺は自...
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金メダル

要は風車の形からの応用だ。そこから四隅を鶴の時みたいに細長いひし形にして、その間を外側に開いてひし形を折りこむ。そこに差し込むのが、二百枚に一枚しかないこいつだ。 「……っと。んで、リボンつけて……よし、七日、千日、そこ並べ」  テーブルの縁からずっと俺の手元を覗き込んでいた双子は弾かれたみたいにどたどたと俺の前に並んだ。緑のリボンをつけた黄緑のと、黄色のリボンをつけたオレンジの。両手に持って、同時に二人にかけてやる...
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婚姻届、もとい、

「受け取って欲しい。僕の気持ちだよ」  「結婚誓約書」。愛抱夢がランガに差し出した真っ赤なカードには、その五文字が踊っていた。 「んんーーーーーーーー」  抜けるような秋の空。少しだけ冷たくなってきた風が吹く屋上に寝転んで、俺は手の中のものを見つめていた。 「……まだ悩んでるの?」  小さな真っ赤なカードを手に頭をひねる俺を冷めた目で見て、隣のランガはやきそばパンにかじりつく。  カードには「結婚誓約書」の文字。その...
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気付きたくなかった、

左耳に届くカウントに合わせ、白い路地に黄色いボードが跳ね上がる。先程まで踵をひっかけていたデッキは今度はくるりと周り、前後を入れ替えた位置で足裏が掴んだ。軽快な着地音が路地に響く。  落ちる静寂。――しかし静けさは、一瞬の後に破られた。 「お、おおおおおおおお~~~~~~!!!!!!」  視線の少し先で、赤毛が歓喜の咆哮を挙げている。左手ではガッツポーズを、右手は耳を押さえている。さらにしばらく余韻に浸ってから、仔犬...