「やっぱ莇の炒飯うめー!明日も楽しみだなー」
少し温め直してやった炒飯の一口目を咀嚼した九門が笑って、また大きな口を開ける。叉焼の代わりに刻んだ角煮を入れた炒飯は九門の好物のひとつだ。
こいつはこうして「美味しい」って思い切り喜んでくれるから、作るこっちも嬉しくなってしまう。好物が入ってるとはいえ、他はどこにでもある適当な炒飯なのに。頬杖をついた口元から、無意識に笑いがこぼれた。
「お前、ほんっと飽きねーよな」
白菜スープに手を付けていた九門がこっちを見る。ずず、小さな音を立ててスープを啜ってから器を置いたそいつは、個性的な眉を寄せて口を開く。
「飽きる?莇に?」
「は?」
何妙なことを言い出してるんだ、こいつは。
「オレが莇に飽きるとか絶対ないけど……あ、でも『美人は三日で飽きる』って言うらしいじゃん。でもオレは全然飽きないなーって考えたことはあるんだよね」
九門は炒飯とスープを食べながら器用にしゃべる。それでも口に入れながら話さないのは、昔からうるさく言った成果なのか。何かとんでもないことを言われそうで、そんなどうでもいいことを考えてしまう。
「毎日もっと美人になってるからだと思うんだよな。で、毎日もっと好きになってる。もし本当に三日で飽きるんだとしたら、三日も経つ前にまた好きになってるから、飽きるヒマないんじゃないかって」
きらきらの金色に捕らわれる。頬がずり落ちて、手は頭を抱えるみたいに額を支る。顔を伏せて表情こそ隠したものの、風呂上りに乾かしたまま結んでいない髪からは耳が見えているはずだ。向かいに座った男が笑うのが気配でわかる。
ほら、構えててもこれだ。なんだってこいつは、そんなことを素面で言えてしまうんだ。
そんなだから、俺は、
「……別に、今更んな心配しねーけど」
こんな自惚れ野郎になっちまったわけで。
ちろり、ほんの少し九門の顔を盗み見る。ちょっと呆けた、赤くなった顔。言わんとしたことは伝わったらしい。
……いい気味。
「つか、美人でもねぇだろ」
「へ!?莇は初めて会った時から美人だよ!?」
喧嘩してたガキがかよ。
「よく言うだろ。花とか、声掛けるとよく咲くって。お前に俺がそう見えるっつーなら、俺が毎日変わってるって思うんなら、お前が毎日言ってくるせいじゃねぇの」
好き。大好き。幸せ。一緒にいたい。んなもんを何年も毎日浴びせられたら、ひねくれたヤツだってちょっとくらい素直にもなる。
「……莇」
いつもより少しだけ湿った声に視線を上げる。いつの間にか食べ終えていた皿を重ねた九門が俺を見ている。
「……何」
「オレ、すぐこれ洗ってシャワー浴びてくるから」
待ってて。
体温の高い両手が投げ出した俺の手を握る。濡れ溶けた金色が俺を絡め取る。
そんなにわかりやすい顔して、よくそんな殊勝なこと言えるよな。
「やだ」
「え!?」
あざみぃ、と情けない声が聞こえる。何考えてんのか知らねぇけど、そうじゃねぇよ。
「待ってらんねぇっつってんの」
握られていない手を伸ばす。昔と比べて精悍と呼べるようになった顔に触れる。頬を撫でて、一瞬躊躇ってから、目を閉じる。唾を飲み込む音が聞こえる。
テーブルの上に身を乗り出す動きを感じながら、握られた手を握り返した。
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前に折角角煮作って待ってたのに残業になって遅くなってこの時間にんな重いもん食わせられっかって少しだけ刻んで炒飯入れてくれて角煮は翌日食べさせてくれたことがあっての明日楽しみという想定でした