金メダル

 要は風車の形からの応用だ。そこから四隅を鶴の時みたいに細長いひし形にして、その間を外側に開いてひし形を折りこむ。そこに差し込むのが、二百枚に一枚しかないこいつだ。
「……っと。んで、リボンつけて……よし、七日、千日、そこ並べ」
 テーブルの縁からずっと俺の手元を覗き込んでいた双子は弾かれたみたいにどたどたと俺の前に並んだ。緑のリボンをつけた黄緑のと、黄色のリボンをつけたオレンジの。両手に持って、同時に二人にかけてやる。
「そらっ、金メダル~。二人とも偉かったからな、ごほうびな」
「「わ~~~~!!!!」」
 首にかけたやったままくしゃっと頭を撫でてやる。声をあげてはしゃいだ二人は、部屋をぐるぐる走り回ったかと思えば台所の方に走って行った。母さんに見せに行ったんだろう。
 双子が去った部屋は一気に静かになる。一息ついて庭の方に目を向けると、いつ来たんだろう、ボードを抱えた相棒が立っていた。
「ランガ。来てたのか」
「玄関から声掛けたら月日ちゃんが暦はこっちだって連れて来てくれた」
 庭の方に這いよると、ランガも縁側に腰掛ける。いつものDAPのあと、ふいに逸らされるランガの瞳。視線を追えば、そこはさっきまで俺がいた畳の上のローテーブルで。
「折り紙、だよね」
 天板の上には鶴や風船、風車やくす玉の欠片。俺と七日と千日とあと月日のも、みんなで折った定番のラインナップが散らばっている。
「おう。前に買ったのが何袋も出て来てさ。さっきメダル作ってやってたとこ」
 見てただろ?と視線を向ければ首を縦に振って返される。青い瞳がちょっときらきらしている。
「……なんか折ってみるか?」
 これは気になってるな。興味を持ったらしいランガに適当引っ張り出した水色の折り紙を手渡す。黙って受け取ったまま正方形の紙に視線を落とす親友の横で、何から教えたもんかと考える。いやでも母親が日本人なら鶴とかそこらは知ってるか?
「暦」
 袖を引かれる。見れば、さっきよりもっときらきらした目で、俺に折り紙を突き出してきている。
「な、なに」
「俺もさっきの欲しい」
 双子にやったメダルの事だろうか。それならと、折り紙の中を探る。開いてる折り紙セットはふたつ。その中に一枚ずつしかない表彰台の真ん中の色はさっきあいつらに使ったけど、二番目の色なら残ってるはずだ。
「っと、あった。じゃあそれとこれで……」
 じゃ、駄目そうだな。俺が取り出した銀色を見たランガはあからさまにしゅんとした顔をしている。
「なんだよ、お前も金メダルがいいのか?」
 しおしおと頷く年上なはずなのに末っ子みたいなランガを見て、俺は仕方ないなとテーブルの下に手を伸ばす。三セット目の開封だ。
「今金で作ってやるから。リボンの色選んで待ってろよ」
「!!」
 テーブルの上の紙袋を指さして言う。嬉しそうに頷いたランガは、縁側で靴を脱いで四つん這いでテーブルの側まで来る。紙袋の中を覗き込むランガの横で、俺は渡された水色の折り紙で本日三回目となるメダルを折り上げる。
「暦、これ」
「おー、決まった?」
 片手で形を整えながら、片手でリボンを受け取る。テーブルの上の折り紙に埋もれたはさみをひっ掴んでリボンを切る。裏面にテープで留める。
水色と白の中央に金色がはまった、赤いリボンのメダルの完成だ。
 声を掛けるより先に突き出されていた雪色にちょっと苦笑いしてメダルをかけてやる。
「ほら」
 ちょっと乱れた髪を整えてやれば、ゆっくりと顔が上がる。胸元のそれを見たランガは、嬉しそうに笑った。
「ありがと、暦」
「別にこれくらい。……そんな嬉しいか?それ」
 ちゃちな折り紙の金メダルを見つめ続けるランガに問う。うん、と当たり前みたいに答えてくる。
「暦がくれる一番はなんだって嬉しい」
 あんなにしゅんとしていた銀色。選ばれたリボンの赤色。そんなに楽しそうな顔を見ていたら、それらにも意味があったように思えてきて。俺の、勘違いでないのなら。
「……はー……」
 ランガが直視できなくなって逸らした目線の先、さっき放り出した銀の折り紙が目に入った。それを手に取り、半分に折って、折り目に沿って素手で切る。細長くなった銀を更に半分に折る。ゆるく、指先に丸めようとしてみる。
 色は金じゃなくて銀色がいいだろうか。メダルみたいに丸くて、だけどもっと小さいもの。俺の一番を明確に示す、いつかお前にあげたいもの。
「……あー、やめだやめ」
 銀を再びテーブルに追いやって立ち上がる。こんな紙でできたもん作ったってどうにもならない。
そもそもランガだってパークに行くのに迎えに来てくれたはずなんだ、なんでこんな事やってんだ。
「行こうぜ、ランガ」
「あ、うん」
 縁側に出るランガはメダルを掛けたままだ。俺の方が恥ずかしかったけど、多分言っても聞かないので黙ってる事にする。
これからももっといっぱい、もっとちゃんとしたのもやるから、俺もお前のそこに置いといてくれよ。
 お前はずっと、俺の中の、