夏の晴れた空が好きだ。どこまでも抜けていくような遥かな青、その中を風を感じながら滑るのが好きだ。高いところから風の塊の中を跳ぶ感覚、空や海と同じくらいきらきらした青、そんな好きなものが増えてからはもっと好きになった。
だけど沖縄の夏は雨の日も多い。クレイジーロックも開かないし、屋根のあるパークは閉まる時間も早い。今日だって空は厚い雲に覆われて、今にも泣きだしそうだ。晴れてる日ならもっと遅くまで滑ってる時間に、俺は自室の机に肘を付いていて。だけど、滑れなくてつまらないはずなのに、悪い気分じゃないのは。
「お兄ちゃーん、お風呂空いたよー……うわ、机座ってる、めずらし」
どうせいつも勉強とかしてねえよ。掛けられた声に振り向くと、上の妹はタオルを首にかけた部屋着姿で俺の部屋を覗き込んでいる。あっ、と思った時には遅かった。何かに気付いたように見開かれる目。
「……なにその箱の塊」
俺の机の上、珍しく俺が机に向かって見ていたもの。外箱と引き出しでできた立方体、それが下からよっつ、みっつ、ふたつ、ひとつ、全部で十個、ピラミッドみたいに重なっている。一番上の箱だけ、開かれた形跡がまだない。
「……えーと」
なんて言えばいいんだろう。第三者に改まって言われるとものすごく恥ずかしい。浮かれていた自分も含めて。
だって、こんなプレゼント貰うの、生まれて初めてなんだ。
七月の終わり、最後にSに行った日だった。社用バイク二人乗り、ランガの運転での帰り道、あいつが俺に家に来て欲しいって言ったから。俺がドープにバイクを返しに行くって事になって、先にランガの家に行ったんだ。
「ちょっと待ってて」
俺をバイクに置き去りに、ランガは走って行ってしまう。なんか俺に渡すもんを持ってくるって事だろうか。そんなの別にクレイジーロック持ってきてもよかったのに。ハンドルに肘を付き、手持ち無沙汰にヘルメットのあご紐をいじりながら考える。すぐに聞こえてくる足音にそっちを向く。と。
「……Sに持って来いとは言えねえな」
「え?」
ランガが持っていたのは顔くらいの大きさもある箱の塊だった。ピラミッドみたいな三角連なった立方体は全部で十個あるように見える。小さい箱はそれぞれが引き出しになっているらしい。え、何?これを俺にって?
「暦、アドベントカレンダーって知ってる?」
「アド……なんだって?」
曰く、クリスマスをカウントダウンするものらしい。毎日ひとつずつ窓を開けると、絵だとか詩だとかお菓子だとか、ちょっとしたプレゼントが入っている。全部開けばクリスマス当日、となるわけだ。
「昔は毎年貰ってたんだ。母さんがパンケーキとかチョコレートとか毎日違うお菓子を入れてくれて、父さんは雪の妖精の模型を作ってくれたりして」
家族の話をするランガはやわらかい。聞いてるだけで、両親にすごく大切にされてきたんだろうなってわかる。あったかい思い出を懐かしそうに愛おしむ表情、そう思えるように育てられて、今俺といてくれるランガになったんだな、と思うと俺もなんだかほわっとする。
「俺が嬉しかった事なんだ。だから、暦にもって思って」
「は?」
「もうすぐ誕生日だろ」
日付が変わって七月三十日。確かにあと十日もしたら、俺の誕生日だ。だけど。
「毎日ちょっとずつ暦をお祝いしたい」
言われて、俺は呆けてたと思う。
「去年はできなかったから、その分も一緒に」
そう言う相棒の圧が強い。変に顔がいいから余計迫力がある。ランガは高二の夏、俺の誕生日を祝えなかった事を、俺が前もって教えていなかった事を根に持っている節がある。そんな風に言われたら申し訳なくなってくるし、それに、まぁ、俺の事祝いたいって思ってくれるのは素直に嬉しいから。
「……じゃ、貰っとく」
「うん!」
そんなふうに、笑ってくれるから。
「じゃあこれ持って帰るのに、」
「……なぁ、今これ開けていいのか?」
紙袋を差し出してくれたランガを制して、箱を抱えあげる。
「数は七月三十日……今日からでちょうどにしてある、右下からで、一番上が最後」
そう答えてからランガは訝しげな表情になる。待って、もしかして。とか言い出しそうな。
「……え、ここで開けるの?」
「なんだよ、もう俺が貰ったもんだろ?一日にいくつも開けたりしねえし。なんで?」
「……さすがに、目の前で開けられるのは」
ちょっと照れくさい。
そう言ってランガが目を逸らす。……なんだよ、ちょっとかわいーじゃん。そういう反応されると、もっとからかってやりたくなる。
「……おまえ、元々誕生日のためのもんじゃねーのを毎日祝いたいって改変しといていまさら」
「そうだけど」
「そらっ」
「あっ」
一番右下を開ける。ころりと出てくる、メモと小さいもの。
「塩飴……?」
折りたたまれたメモを開く。『この前のトリック、暦が見てくれたからできた。暦はすごい』。……これさぁ。
ランガを見る。口元を押さえて目を逸らしている。そんなのを見たら俺の方までむずむずしてくる。
「おまえどこに恥ずかしがってんだよ……」
「俺もわかんなくなってきた……」
明け方に近い深夜、男二人向かい合って照れて何をしてるんだろう。
「……とにかく、ありがとな。毎日開けるから」
「うん」
おやすみ。
背中に聞こえた声が、なんだかすごく甘ったるく感じた。
箱を貰って帰ってきて寝て起きて、その日もランガと滑りに行ったけど、不思議とあの箱の話はしなかった。いつもみたいにサイコーのトリックをキメあって、自分たちを撮ったのとかスケーターの動画を見るのに木陰で頭を突き合わせて、DAPして、馴染みの店で隣に座って腹ごしらえして、滑って。拍子抜けするくらいいつもの俺たちだった。
俺へのプレゼントだっていう箱の塊は、なんだか夜だけの秘密みたいだ。帰り着いた自分の部屋で、机の下に隠した箱を眺めながら考える。もうすぐ午前零時。いつもならスマホ片手に寝落ちしてる時間だけど、こんなものがあるとなんとなくそわそわしてしまって。
――かすかに聞こえる電子音。日付が変わる時報に、俺は二番目の箱に手をかけていた。小さな引き出しをそっとひらく。畳まれたメモ。
『いちばん下のひきだし』
広げたメモには相変わらずユニークジでそんな文字が躍っていて。
「は?」
何?あいついつの間になんか仕込んでんの?ちょっと怖くなりながら机の横の引き出しを開ける。学習机の一番下の段は確かに長いこと開けていない。
「これ……か?」
出てきたのは見覚えのあるビニール袋。どう見てもドープのショッパーだ。持って軽く振ってみた感触は固くない。ボードのギアではなさそうだ。手を突っ込んで、引っ張り出す。――気が付いたら、俺はスマホを顔の横に当てていて、呼び出し音が聞こえていた。しばらく経ってから、途切れるそれ。
『……暦……?』
「おっまえ!いつの間に何仕込んでんだよ!」
『!』
眠そうな声がはっきりした気配に変わるのがわかる。たぶん、目ぇまんまるくしてるんだろうな、目の前にいるみたいにわかる。
『開けたのか、今日の分』
「おー。これ俺が今度バイト代入ったら買おうと思ってたシャツじゃん、在庫減ってんなーと思ってたらお前かよ」
別に、買おうとしてたのは言った事はなかったはずだ。なのにこれを選ばれるっていうのは。
『前に暦が好きだって言ってたアーティストだなって思って』
転がって跳ねるみたいな声に告げられて息が止まりそうになる。だって普段いろんな事に無頓着なこいつの中にそれだけ俺がいるっていうことで。
その事実が、こんなにも。
「……これで十分なのにあと一週間も何出てくるっつーんだよ……」
『あはは……なぁ暦』
声をあげて幼く笑ったランガが、今度はちょっと真面目な声で言う。
『またさ、開けたら通話掛けてよ。頑張って起きてるからさ』
「……ん」
お前が俺を想って用意してくれたもん見つけて、お前の声聞いて、それが毎日なんて。俺は誕生日までにどうなってしまうんだろう。
八月一日。いつものラーメン屋の替え玉無料&叉焼増し券。
「これこの前お前が店のくじで当てたやつだろ、自分で使えよ」
『嬉しくなかった?』
「んなこと言ってねえって。でもお前が当てたの横取りしようとは思わねえよ」
『うん……』
「……よし、俺がこれ使うとき、お前には俺が味玉奢るな」
『……ありがと』
八月二日、チョコ味のプロテイン。
三日、花の種。
「昨日のがミヤで種はシャドウの入れ知恵か?」
『う……』
「わかるって」
『……種、秋に撒く花なんだって。今度一緒に植えたい』
「ん。楽しみにしてる」
八月四日、ベアリング。
「おまえこんなちゃんとした値段するヤツやめろよな、ハードル上がる」
『だって俺のボードにだってお金かかってるのに全額は受け取ってくれないだろ』
「それとこれとはさー……あーもうありがとな。すっげー助かる」
『うん。……ふふ』
「あんだよ」
『ハードル上がるっていうから』
「あ」
八月五日、塩飴。
「尽きたのはネタか?予算か?」
『どっちもかな……』
「素直かよ」
八月六日、古い雑誌の記事。
「レジェンドの記事じゃん、すっげ、なんでお前こんなん持ってんの」
『父さんの本棚のスノーボードの雑誌にあったんだ。暦の雑誌で見たことある人だったから、スケートもスノーボードもやってた人だったんだなって。やっぱり知らなかった?』
「海外のスノボ記事とか見たことねえよ、ありがと……なぁランガ」
『何?』
「あとで訳教えて」
八月七日、塩飴。
「三回目。前日にショボくねぇ?」
『で、でも。今日は雨降らなきゃSだったから、その時追加で渡してもいいと思ってたんだ。豆だいふく』
「なんで?」
「あーーーーー……」
なんとか月日を誤魔化して風呂入ってアイス食べたりなんだのして、八月七日、二十三時四十二分。もうどれくらいになるだろう、俺は最後の箱を見つめ続けている。
箱の塊を貰ってからだって、ほとんど毎日一緒に滑ってた。同じシフトに入ってた日だってあった。それでも日付が変わってすぐにこの箱を開ける時間が、あいつが時間をかけて考えてくれただろう何個ものプレゼントに触れる瞬間が、俺の着信を受けるあいつの弾んだ声が。なんだかとっても特別で。くすぐったくて。……確かに何かが育っていて。
毎日毎日こんなに浴びせられて、どうなるんだろうって思った。そんな心配意味なかった。こうなることくらい、わかってたんだ。育ってたものの名前も、最初から知ってた。だって、俺の中はそれまで以上にあいつの事ばっかりだ。
立方体を指で転がす。月日から隠そうとして気付いたけど、十個の立方体はそれぞれ外れるようになってたらしい。最後の箱を軽く振ってみる。一辺七センチくらいの最後のそれからは、やっぱり何かメモが入ってそうな音がする。
何が、入っているんだろう。あいつが、俺の誕生日にいちばんあげたいって思ってくれるもの。俺が、あいつから貰いたいもの。
目を閉じて、浮かんだのは。
「――……っ」
昼間からずっと泣き出しそうだった分厚い雲は、今は途切れてほんの少し月明りが差している。最後の箱をひっつかんで、窓から躍り出た。
濡れた土のにおいがする街を駆ける。雲の裂け目が広がって、月の周りに星が姿を見せる。空いた手をポケットに手を突っ込んで、掴んだものを顔の横に当てる。いつもより十分弱早く鳴らした呼び出し音、途切れるのはいつもより遅かった。
『、暦!?』
ほんの少し息が荒い。まるで運動した後みたいに。だから俺は、調子に乗ってしまう。
「なぁ、今から出てこれねえ!?」
息をのむ気配がした。
『……うん!行く!』
声がなんだか揺れている。たぶん何度も頷いてんだろうな。すぐに思い浮かべられるくらい、俺たちは一緒にいる。
「んじゃいつものパークな!」
わかった、って返事を聞いてから通話を切って、プッシュを加速させる。海の見えるパークはこの通りを抜ければすぐだ。たぶん、あいつもすぐに来る。だって、
「――暦!」
ほら、声が聞こえる。
海が星空を映している。いつの間にかすっかり広がった晴れ間から、月が俺たちを照らしている。
パークの入り口で合流してすぐDAPを交わしたあと、隣合わせにレール台に座る。こっちを見るランガはなんだかそわそわしている。
「着くの早いじゃん」
「暦だって。どうしたんだよ、急に出てこれないかなんて」
俺を見るランガがまぶしい。だから俺はきゅっと拳を握って、ランガの目を見て言うんだ。
「どうしても、今ランガに会いたかった」
「――っ」
海の青がまんまるに見開かれるのがすぐ近くに見える。ああ、やっぱり綺麗だな。そう思ってる間に、ポケットに入れたスマホが震える。日付が変わった合図だ。
「……な、言ってくれよ」
同じように時間を確認していたんだろう、スマホに視線を落としているランガにささやくみたいに言う。ねだるみたいな言い方になったのは俺を見て欲しかったからだ。まんまるのままだった海色がやわらかくほどけて、表情ぜんぶがとろけそうな笑顔に変わる。
「暦、誕生日おめでとう」
生まれて来てくれてありがとう。
――空を仰ぐ。本当に、俺はランガには勝てねぇんだなってつくづく思う。
そうやって、俺が一番欲しかった言葉を、俺の一番大好きな笑い方でランガはくれる。
「――れ、」
気付いたら、俺はランガを抱きしめていた。
跳ねる鼓動を感じた気がしたのは俺の願望だろうか。ランガはたぶん戸惑ってるんだろうと思ったけど、話してやるなんてできない。
「……いきなり悪い、嬉しくて」
それだけ言って、抱きしめる腕を強くする。ランガは黙って、俺の腰に手を添えてくれる。
心臓がばくばくしてる。だって、ランガがそんなこと言ってくれるから。急にこんなことしたの受け入れてくれるから。
抱きしめてる身体も鼓動が速いのを感じる。俺のが移ったのかもしれないけど。お前がそんなだから俺は自惚れちまうんだ。
「俺さ、楽しかったんだ」
毎日お前がちょっとずつ祝ってくれるの貰って。それだけ俺のこと考えてくれたんだなって思ったらすっげー嬉しくて。毎日俺の通話待っててくれるから、俺が喜んでるので嬉しそうにしてくれるから、どんどんお前でいっぱいになっていって。
「ランガに、一番に言って欲しいって思った。……もしかしたら、お前も一番に言ってくれようとしてるんじゃないかって思ったら、考えるより先に飛び出してた」
そしたら、通話に出るのがいつもより遅いし、その時ちょっと息が荒かったし、通話を切ってから家を出たにしては、どう考えてもパークに着くのが早かったし。どんどん確信が深まるばっかりで。
「これ」
少しだけ身体を離して、ポケットに突っ込んでたものを見せる。まだ開いてなかった、最後の箱だ。
「今、開けていいか」
箱を見下ろしたまま、ランガが頷くのを上目で見て、引き出しを開ける。何度か入っていたのと同じ、小さく折りたたまれたメモ。そっと、開く。
『外見て!』
平らにした小さい紙の中央、相変わらずちょっと個性的な字で、確かにそう書いてあって。
「……やっぱ、うちまで来てくれるつもりだったんだ」
うん、小さく落ちる静かな声。
「一番に言いたかったから」
それから一緒にそのまま滑りに行きたかった。そう続けるランガに曇りはない。言いたかったってお前。
「俺へのプレゼントじゃなくてお前が言いたいからなのかよ」
「あ」
本当に今気付いた、みたいな声だった。昨日までのは全部、俺の欲しいもの考えてくれてた感じのだったのに。そう言えば。
「俺が暦からもらって一番嬉しいものって、考えてたから」
暦から一番におめでとうって言ってもらえて、一緒にスケートできたら、俺はそれが一番嬉しいから。そんなことを、てらいもなく言うから。
「……お前さあー……」
俺はランガが見れられなくて、下を見て箱をいじることしかできなくなって。
「でも暦、嬉しいって言ってくれたよね?暦、俺とのスケート好きだろ?」
これ以上畳みかけるの勘弁してくれねえかな。本当に、抑えきれなくなる。
「自信満々かよ」
「違うの!?」
「違わねえけど」
「暦!」
心底はしゃいだ声にランガの表情を盗み見る。俺にはランガがきらきらしてしか見えない。お前がそんなに嬉しそうで可愛いから。
「ランガとスケートするのめちゃくちゃ楽しいけど、スケートがあってもなくても、お前から一番に欲しかったよ」
もう、抑えねえよ。
「だって、一番は好きなヤツからがいいだろ」
一番だって、思ってて欲しいだろ。
――ランガが息をつめたのがわかった。うつむいたまま、ランガの肩に頭をぶつけた俺は臆病だ。
「それって」
そうだよ、伝われ。願いながら、落とした視界に写る白い手に触れる。指を絡めて、きゅっと握る。顔を上げようとする。その瞬間だった。
「――んっ」
世界が回る。雪色の向こうに星空が見える。やわらかいものが口に触れている。甘い体温が重なって、全部それだけでいっぱいになる。
どれくらい経っただろう、俺の息ごと飲み込んでいた湿った感触が離れて、ランガが俺に覆いかぶさってたことに気付く。
ぶれていた視線をランガに戻す。綺麗な顔がいっぱいに表してる感情は、今まで見たことないくらいの、
「俺も!俺も暦が好き!この十日間で毎日もっと好きになった!」
声が、ぶつかってくる吐息ごと甘い。繋いだ手は離さないままに、でもぎゅうぎゅうに抱き着いてくる身体が熱い。頬に触れて顔を覗き込めば、海の青はきらきらしてて、白い頬は淡く染まってて、離れたばかりの赤は濡れて光ってて、――それじゃあ、さっきのって。
一気に顔が熱くなる俺を見つめ続けるランガは、ますますきらきら笑う。
「毎日楽しそうな声聞けて俺も嬉しかった。暦も同じって聞いて、一番がいいって言ってくれて夢みたいだって思った。――なぁ暦、夢じゃないよな?来年からもずっと、俺に一番に言わせてくれる?」
額を触れ合わせて、指を絡めた手を強く握りながらランガが言う。
夢じゃないかはこっちのセリフだ。世界で一番大切なヤツが、自分もそうだって、俺が好きだって言ってくれるなんて。
「当たり前だろ。……俺もそうして欲しい」
ランガの一番になりたい。
俺の言葉に目を見開くランガの頬を撫でる。花が咲くみたいにほころんで、俺の手にすり寄ってくる。
「うれしい」
好きであふれてどうにかなりそうだ。
頬に触れていた手を頭の後ろに回して、ほんの少し力をこめる。うっとりとろけた瞳が、ゆっくりと閉じられる。
なぁ、いいんだよな?これはそういうことだよな?全部ゆだねるみたいなランガに、心臓が爆発してしまいそうで。
息を吸いこむ。今度は俺の方から、ランガの顔を引き寄せた。