∞DAP

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『追憶』

目を閉じた先、まどろみの中、春の日の俺がいた。何も瞳に映ってない、雪山から動けないままでいる俺。――スケートをまだ知らない俺。あんな顔をしてた頃が、俺にあったんだ。  声を掛けようとして思い留まる。あの俺はこれから知るんだ。無限の夢を。  教えてくれるのはお前じゃないと意味がないから。
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『「また、明日」』

鼓動が跳ねる。空が、海が、世界がきらきらしてる。全部、隣にいるからだ。一緒だから楽しいって、大切なことを教えてくれた。  帰りたくないな。そうこぼした俺に、明日も明後日もって言ったろ、って歯を見せて笑って、まっすぐ俺を見て拳を突き出してくれるから。  今は俺も笑って言える。 「また、明日」
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『愛情表現』

通学路の丁字路でさ。声掛けると俺の事じっと見て来たり、頭とか喉撫でても大人しく擦り寄ってきてさ。……朝から何してんのって、変な事言ってるか?  でさ、これ、懐かれてるよな?ミヤ、猫の愛情表現とか詳しいだろ?  ……なんで叩くんだよ!?惚気と勘違いさせる方が悪いって、お前何の話してんの!?
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『残像』

一人で入ったシフトのあと、石畳の表通りから曲がって細い路地を通って行くことがある。チェリー、もとい桜屋敷先生の書庵の裏。  目印も何もない通りの途中で立ち止まって、しゃがみ込む。目を閉じる。風とウィールの音を思う。  まぶたの裏に浮かべるのは、俺の上を跳ぶ姿。時々、思い出したくなるんだ。
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『煽らないでくれよ』

スタートにはランガにミヤ、何故かチェリー、何か知らない奴ら。画面は「レキ争奪戦」、賞品は俺を好きにする権利らしい。ラブホに縛られ自由を奪われた俺は虚しく出走者を眺める。  沿道から高い声。スノー頑張って。レキといちゃいちゃして。本人はやる気に満ちて大きく頷く。頼むからこれ以上そいつを
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『誘う視線』

あいつのビデオパート撮ろうって話になった。だから俺は新調したスタンドでスマホ構えて、十何回目かのあいつの滑りを動画に収めようとスタンバイしてたんだ。  なのに俺を見るあいつの瞳は、一人のパート撮るより俺と滑りたいって語ってて。  お前とのペアパート?そんな楽しそうな事、乗るに決まってる。
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『振り向きもせずに』

夢中になったら他のもんなんか見えなくなるって、誰に何言われても意見変えないヤツだって、そんなのよく知ってるよ。  いつか大事なもん見付けたら俺のことなんて振り向きもしないでそっち行っちまうんだろうなって。  だからさ、それまででいいんだ。お前の一番は俺のもんだって、思わせてくんねーかな。
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『君に預ける』

少しのミスで大怪我に繋がるから、最後の整備は自分でやる。テレビで見たスケーターは言っていた。  自分での整備も覚えさせたけど、あいつは俺に整備をねだる。作ったのが俺だからとか気持ちの面もあるんだろう。  でもそれだけじゃない。俺はあいつ自身を委ねられてる。時々思い知ってしまう。
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『自分だけ知ってればいい』_L

学校での暦は目立つ。誰でも顔か名前とスケボーバカな問題児だって知ってる。話すと明るい優しいヤツって事も。でも、新作パートを見るきらきらの目とか、工具を扱う真剣な表情とか、滑ってる時の楽しいでいっぱいの笑顔とか。スケートに夢中なかっこいい暦を知ってるのは俺だけでいい。俺だけがいい。
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『自分だけ知ってればいい』_R

“スノー”はSの有名人だ。完成度の高い高度なトリックも情人離れしたスピードも無茶に思える大胆な戦い方も、見るヤツを惹きつけてやまない。でも、大半のヤツは知らない。失敗して派手に転ぶ姿も、悔しそうに眉を寄せる幼い表情も、初めてキメた瞬間の花咲くみたいな笑顔も。全部、俺だけのもんだ。
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『先着順』

偶然会ったお母さんと双子たちに誘われて家にお邪魔する。部屋へ駆け出す二人はお兄ちゃんに甘えたいらしい。 二人の後を追ったリビングに、妹を両手に抱いた親友の姿。 正直双子たちが羨ましい。でも腕は二本しかないし、大人げない。 気付いた彼が俺を見る。呼ばれるだけで嬉しいなんて重症だと思った。
Becaue I love you

Because I love you(+) -pure-

――月が、輝いている。  窓から顔を出して位置を確認しながらハンドルを回す。縁石にぶつかる感触に動きを止め、ギアをパーキングに入れてサイドブレーキをかける。キーを回してエンジンを切ったところで、俺はハンドルに突っ伏した。