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『ほんの一瞬の出来事』

玄関で鳴ったチャイムに「俺の通販」と恋人の声。振り返って見えた姿は玄関に向かう、かと思ったらダイニングに入ってきて。  はんこ置きっぱなしだった?テーブルを探ろうとした途端、後ろに引き寄せられて、影が重なって、一瞬。  玄関の音に我に返る。唇を押さえる。ああもう、どうやり返してやろうか。
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『僕を呼ぶ声』

朝、いつもの待ち合わせ場所に来た時。  授業中、微睡んでたのに声を掛けた時。  昼休み、動画を覗き込んだ時。  放課後、サイコーなトリックをキメられた時。  夜、熱を分け合って見つめ合う時。  どんな時でも、その唇から紡がれるたびに、自分の名前がもっと好きになっていくんだ。  それから、おまえのことも。
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『あたためてください』

「チンして食えよ」  帰りが零時を超えるとわかってた俺に恋人が作り置いてくれた夜食。ポテトにソースとチーズ、自分は食べないのに俺の好きな物を作ってくれててきゅんとする。  その分少し心が冷える。ここに彼がいないから。  好物よりも、身体と心ををお前とあっためたい。夜食をしまって寝室に向かう。
SK∞

エピローグ

「……っていう夢をここ何日か連続で見たんだよな」  十月三十一日深夜の廃鉱山。俺の隣、岩肌に背中を預けたエイリアン――のきぐるみを着た暦が言った。
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狼男×人間

「今夜満月だから部屋に入ってくんなよ」  高校を卒業して一緒に暮らし始めた春、恋人は鶴の恩返しみたいな事を言った。
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『おかしくなりそう』

まだ慣れない南の島の炎天下、夢中で滑っていた俺は倒れた。日陰に寝かされ、額に濡れタオルを置かれ、扇いだ風を受ける。  迷惑かけてごめん。くらくらする中で言うと、俺にならいくらでも、と甘やかす。  もう離れられないなと零す。離れる気あんの?本気の声が返ってくる。  何だよそれ。暑さよりお前に、
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『ゆびきりげんまん』

前にさ、約束って俺が小指出したとき、大人はこうするんだよってDAPしたよね。  でも指切りって「嘘ついたら針千本飲ーます」って続くだろ。破ったときの罰がないと代わりにならないなって思って。  だから何か決めないか?約束破ったら一生かかっても償うって意味の何か。  ……いるだろ?一生、一緒に。
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『力のない抵抗』

据え膳って言葉を聞いた。そうなろうと思った。  押し倒して上に乗って、額を付けて見つめる。触れた胸に感じる鼓動は速い。なのに固まったまま何もしてくれない。  俺の好きにするけど、いいの。身体を捩って諫める言葉を吐いてくるけど、本気なら跳ねのけられるって知ってる。  なぁ、もう諦めて襲ってよ。
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『精一杯の笑顔』

あの日船の上で見た視線によく似ていて、でも全然違うってすぐにわかった。ぼんやりした「いいな」じゃなくて、もっとまっすぐな「すき」。  わからないはずない、俺が暦を見る視線と同じだったから。  叶わないって知ってた、だから平気なんだ。でももう少しだけ待って。ちゃんといつもみたいに笑うから。
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『残像』

一人で入ったシフトのあと、石畳の表通りから曲がって細い路地を通って行くことがある。チェリー、もとい桜屋敷先生の書庵の裏。  目印も何もない通りの途中で立ち止まって、しゃがみ込む。目を閉じる。風とウィールの音を思う。  まぶたの裏に浮かべるのは、俺の上を跳ぶ姿。時々、思い出したくなるんだ。
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『手を出したい』

先のことはわからないって言うけど、これだけはわかるよ。未来の俺もずっと暦が好き。この気持ちは絶対に変わらないって確信がある。  今の俺は今の暦が好きだ。この先ずっと、無限に一緒にいるとしても、今の俺たちにしかできないことをいっぱいしたい。  今すぐ触れたい。触れられたい。全部。なぁ、暦。
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『思わず漏れた声』

ドリンクを煽る喉がごきゅりと動く。ヘアバンドが吸いきれなかった汗が日に焼けた首筋を流れる。運動後の肌は上気して普段よりすこし色付いている。赤い唇と舌は飲み干したドリンクで濡れている。  おいしそう。  声に出してしまったと気付いたのは、聞こえてしまったらしい年下のプロの表情を見てだった。
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『膝枕』

目を開けた先に見える、俺を覗き込む琥珀色。午前最後の野外体育、暑さにふらついた俺を寝かせてくれてた相棒。昼も食べずに体操服を着替えもせずに。そんなところも好きだ。  でももう動けるし、ご販食べて元気出さないと。彼を枕にするなら膝より腕がいい。万全でなくちゃ、その前の事もできないから。
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『妖しき月夜』

狼男っているだろ、なんて言うんだ。満月の晩だけ獣になるモンスター。月のせいだから忘れてくれって、そう言うんだ。  でも、月が明るいからお前の顔もよく見えたよ。俺を組み敷いた時の深さを増した琥珀色、舌が離れた時の怯えたような色。  なぁ、本当のお前を教えてよ。怖がらないで、俺が一緒だから。
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『隠しきれない』

アンカットデッキ、整備オイル、袋麺、スキン、冷凍フライドポテト、チーズ、ルーブ、カラースプレー、他にもいっぱい、二人で一緒にやりたいことの準備。  久しぶりに連休が重なるのが楽しみで、たくさん買い込みすぎてしまった。  浮かれすぎで恥ずかしいけど、大荷物も俺の気持ちも全然隠せそうにない。