side_R

140SS

『いっそ無理やりにでも』

あいつの好奇心は子供みたいだ。  恐れ知らずなきらきらした目。あいつが望みさえすれば、俺なんかの理解が及ばない、追いつけない高みまで、簡単に行っちまうんだろうから。  あいつが離れてくくらいなら、いっそ、力ずくででも。  俺の中に沈んでるこんなどす暗い欲なんて、あいつは一生、知らなくていい。
140SS

『ふいに落ちた沈黙』

海色がすぐ近くにあった。 息が混じる距離、弾んでた会話が途切れて、互いに言葉がなくなる。 綺麗な青に俺が映ってるのが見える。呼吸が止まる。落ちた沈黙は湿度を帯びて、瞳がやわらかくほころんで。唾を飲み込む。――あと、ちょっと、  ――飛び込んできたちびたちの声に、俺たちは揃って崩れ落ちた。
ロリポップ・ハニー

マシュマロ・ホイップ・アイス・シュガー

レ×ラ♀ ボードを持たずにショッピングモールにお出掛けした日の話。
SS

悪魔×聖職者

若い悪魔祓いのくせに生気が薄いヤツがいるって聞いたからわざわざ寿命を貰いに来てやったんだ。なのに。 「暦」  山奥の集落、ヤツの管轄の小さな教会。俺はその聖職者に拘束されている。……正確に言うなら、腕の中に抱き込まれている。なんでこんなことに。
SK∞

人間×吸血鬼

「暦、おなかすいた」  高く抜ける秋空の下の屋上、菓子パンみっつと一リットル紙パックの牛乳と俺の弁当の卵焼きを胃に収めた相棒が言うそれは、もちろん空腹のことではなくて。俺はため息をつくふりをしながら学ランの袖をまくる。  これで何度目になるだろう、この綺麗な顔した吸血種に血を与えてやるのは。
140SS

『愛情表現』

通学路の丁字路でさ。声掛けると俺の事じっと見て来たり、頭とか喉撫でても大人しく擦り寄ってきてさ。……朝から何してんのって、変な事言ってるか?  でさ、これ、懐かれてるよな?ミヤ、猫の愛情表現とか詳しいだろ?  ……なんで叩くんだよ!?惚気と勘違いさせる方が悪いって、お前何の話してんの!?
140SS

『君が微笑む』

クラスのグループのアルバムには教室で撮った写真が納まっていて、俺も何枚も写っている。  時系列で見て気付くのは親友の表情だ。仏頂面がだんだん柔らかくなり、花咲くみたいな笑顔になる。――俺を見る時だけ。  これクラスのヤツ全員見られるんだよな?照れより優越感が勝つから俺もどうしようもない。
140SS

『とっくに知ってるよ』

出逢った頃から好きだった。宅飲みで潰れた親友が口走る。言った当人は夢の中。  多分言う気はなくて、墓まで持ってくつもりだったんだろう。俺と同じで。  ずっと前から知ってた。伝える気なんてなかった。相棒の距離がいいって思ってたのに。  色付いた白い肌に喉が鳴る。聞いたらもう、欲が出て仕方ない。
140SS

『遠くへ行きたい』

例えば一緒に住むとして、個室は要るから2DKにはしときたいし、食費もかかるしスケートなんてもっとだろ。そのためにもさ、稼ぐってなったら都会、大阪とか東京とか、もっと遠くに行きてえなって思うことはあるよ。  お前がすごいから。俺自身が、自信を持ってお前の隣にいられるようになりたいから。
140SS

『煽らないでくれよ』

スタートにはランガにミヤ、何故かチェリー、何か知らない奴ら。画面は「レキ争奪戦」、賞品は俺を好きにする権利らしい。ラブホに縛られ自由を奪われた俺は虚しく出走者を眺める。  沿道から高い声。スノー頑張って。レキといちゃいちゃして。本人はやる気に満ちて大きく頷く。頼むからこれ以上そいつを
140SS

『もうひとつちょうだい』

旅行の準備をしてた時だ。相棒はシャンプーやボディクリームを詰めた入浴・就寝セットを確認しながら声を上げて、もうひとつちょうだい、と俺の後ろを指さした。  手元には四枚綴りの正方形が三連、俺の後ろはそういう物のストック棚。  旅先でどんだけするつもりだよ。少し呆れつつ、俺は棚に手を伸ばす。
140SS

『誘う視線』

あいつのビデオパート撮ろうって話になった。だから俺は新調したスタンドでスマホ構えて、十何回目かのあいつの滑りを動画に収めようとスタンバイしてたんだ。  なのに俺を見るあいつの瞳は、一人のパート撮るより俺と滑りたいって語ってて。  お前とのペアパート?そんな楽しそうな事、乗るに決まってる。
140SS

『振り向きもせずに』

夢中になったら他のもんなんか見えなくなるって、誰に何言われても意見変えないヤツだって、そんなのよく知ってるよ。  いつか大事なもん見付けたら俺のことなんて振り向きもしないでそっち行っちまうんだろうなって。  だからさ、それまででいいんだ。お前の一番は俺のもんだって、思わせてくんねーかな。
140SS

『もしかして、妬いてる?』

いくら仲良いっつったって、普通友達同士でおかしいだろ。お前が誰とどこで何してようが、俺は何も言えない。  そりゃちょっとはつまんねえけど、それは俺が勝手にそう思うだけでお前が行動変える事じゃねえし。  なのになんでそんな嬉しそうなんだよ。俺がかっこ悪いだけなのに。勘違いしそうになるだろ。
140SS

『がらがらと崩れる』

ブロックを組んだタワーから順番に抜いて重ねて倒したら負け。有名なゲームが押し入れの中から出てきたら当然勝負になって。  不意に重なった視線はやたら色っぽくて、勝ったら好きにしていいなんて言ってきて。  ひっかからねえよ。俺のその言葉が強がりだと証明するみたいに、傾いたタワーが音を立てた。