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その赤の理由でありたい
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そもそもの始まりは、オレが気付いてしまったことだった。セカイのカフェで合流したとき、こはねの印象がいつもと違う気がしたから。
丸テーブルの向かい側、背を屈めて軽く顔を覗き込もうとする。
「……し、東雲くん?」
「ちょっと彰人、何こはねにちょっかいかけようとしてんの!?」
ばしん。頭に鈍い衝撃が走って、オレの顔は強制的に下を向かされる。誰がやったかなんて、考えるまでもない。
「お前……」
起き上がったオレは当然杏を睨むが、当人はどこ吹く風だ。まぁ、でも、違和感の理由はわかった。叩かれる一瞬前、目元が淡くきらめいたのが見えたから。
「悪いこはね、なんかいつもと違えなって思ったから。メイクしてんだな」
疑問が解決したからと手元のセトリに戻そうとした意識は、テンションの高い声に引き戻される。
「そう! かわいいでしょ!? さっきあんたたちが来る前に二人でメイクしあってたんだよねー!」
横から抱きついた杏がこはねに頬を寄せる。並んだのを見れば、確かに似たようなパール感の色違いをまぶたに乗せているのがわかる。
いわく、どこかのアイシャドウの限定色がこはねに似合いそうで、しかもパッケージがハムスターイメージときて、どうしてもこはねに使いたくなったらしい。
「昼休みに瑞希が見せてくれたんだけどさ、私に似合いそうなのもあるって言うから。だったらお互いにやりたいなって。ねーこはね?」
「うん、人気だって聞いたから手に入らないかと思ったけど、近くで買えてよかった。フォトコンテストのときの青柳くんと遥ちゃんを見てたから、私もちょっとやってみたかったんだ」
こはねの言葉にオレの隣の冬弥が小さく微笑む。
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。……しかしそうか、暁山が楽しそうに白石に会いに行くと言っていたのはそれだったのか」
なるほど、と冬弥が頷く。あいつ確かに今日は昼からいたな。学校来る目的が勉強じゃねえのかよ。自分も勉強は好きじゃないことを棚に上げて考えていると、杏が妙なことを言いだした。
「でさ、さっき話してたんだけど。そのうちイベント出るとき四人でメイクしてみない?」
「……は?」
何言ってんだこいつは。反射的に声に出た。
「限定品とかって色々コンセプトあるでしょ? イベントとか曲のイメージに合ったときとかさ、意識してみるのもいいんじゃないかなって!」
楽しそうな提案の途中、オレははっと気付いて隣を伺う。何せ、そこにいるのは好奇心の塊なのだ。果たして。
「それはとても興味深いな……!」
オレは頭を抱えそうになった。
わかってた、こういうヤツだ。オレの相棒は、初めての経験に興味津々だった。こうなったらもう、アレだ。ほら、俯いたオレを冬弥がチラチラ見ている。わかってるよ、オレはお前に弱いんだ。だから、
「彰人……駄目、だろうか……」
***
つーわけで、やるとなったら中途半端は性に合わねえ。オレらも有名になってきたし、ナメられないためにも見た目も強くしておくのも悪い手じゃないだろう。もちろん、一番は歌でわからせてやることだが。
幸いウチには姉貴の私物っつー参考資料もあるし、メイクは専門外でもコーディネートにはそれなりに自信もある。目的に合わせて演出するって意味じゃ考え方は近いはずだ。
オレが選んだ服、あの白い肌、綺麗な顔の作りを活かすなら。
「よし、やるぞ」
ベッドに座らせた冬弥の前、オレはアイシャドウブラシを構えていた。
「よろしく頼む……?」
冬弥はどこか戸惑っている。最初渋りそうだったオレがここまでやる気になったらそうなっても当たり前だろうが。オレは横に置いたパレットを確認して、冬弥に向き直る。
下地はすでに塗らせた。っつっても、こいつの肌は白くてきめ細やかで、必要ねーんじゃねーかってくらい綺麗だ。
「んじゃ、触るぞ」
一言落として、冬弥の頬に手を添える。下から覗き込んだ相棒の表情が変わった。目を伏せる一瞬、多分オレしか気付かない、ほんのわずかな色。
――そういうことかよ。ほんのひとしずく未満のさみしそうな瞳に、オレは何度呼んだか知れない名前を口にした。
「とーや」
ブラシを当てようとした手を下ろして、ひとつ息を吐き出す。
「別に、お前のメイクが駄目ってわけじゃねーからな」
「……え」
開かれたアイスグレーがオレを見る。そんなん、当たり前だろーが。
そもそも、こいつは自分でしたメイクでフォトコンテストに入賞したんだ。冬弥の表情はもちろん、こはねの写真も良かったにしても、メイクの協力者はあの桐谷だ。オレにあのトレーニングメニューを組んできた桐谷の教え方で、この勉強熱心な真面目バカが取り組んだらどうなるか。写真を見てなくたって、質がいいものになるのはわかりきっている。
「まぁ、専門外のオレがどうこう言えたもんじゃねえけど。でも桐谷にも暁山にも褒められたんだろ。そのお前のメイクが良くなかったわけあるかよ」
そこまで言い切ると、冬弥は顎に手を添えて首を傾げた。
「……では、なぜ彰人は俺にメイクをしてくれようとしているんだ?」
「そんなもん決まってんだろ」
本当にこいつはオレがメイクにもの申すためにやろうとしてたと思ってたんだろうか。理由なんて、その他にいくらでもある。
「メイクってのも要するに外見をどう見せるかって話だからな、ある意味コーディネートの延長線上みたいなもんだ。で、お前の服選んでんのはオレだろ。それなら無関係でいたくねえ」
だから、オレも冬弥のメイクをしてみたかった。まっすぐに冬弥の目を見て言う。
「……っつっても、さっきも言ったが、少しは調べはしたがオレはメイクは専門外だからな。実際自分であんだけやったお前よりはできねえと思う。なんかちげーなとか嫌だなって思ったら容赦なく言えよ。お前に我慢させてまでやりたいわけじゃねえから」
頼りにしてるぞ、相棒。オレの言葉を受け止めた冬弥は、目に見えて嬉しそうに表情を輝かせる。
「そう言ってくれるなら、彰人に任せよう。出来上がりを楽しみにしている」
「ん。じゃあ目ぇ瞑れよ」
ああ。小さな相槌のあと、銀色が見えなくなって、長いまつげの影が落ちる。そっと、白い頬に手を添える。
コーディネートの延長線上、だから無関係でいたくない。冬弥に言ったことは本当だ。だけど、それだけでもない。
冬弥は綺麗だ。本人に自覚はなさそうだが学校でもモテてるし、イベントに来てくれるファンの中にだって容姿を見てるヤツらはいる。ましてあんなコンテストに入賞して、メイクでもっと綺麗になることも、それが評価されることも証明されてしまっている。
その冬弥がメイクをするっていうなら。もっと綺麗になるなら、それで注目を浴びるなら。その冬弥はオレが手を加えた冬弥であって欲しい。冬弥をより魅力的にしたのはオレだって、こいつを見るヤツら全員に思い知らせてやりたい。歌やコーディネート以外のことでも、ぜんぶ。
冬弥は目を閉じて、オレに頬を触らせている。全幅の信頼だ。お前の相棒がこんなどろどろしたもんを抱えてて、何されてもおかしくない状況だってのも知らずに。
艶やかな唇に親指を近付けて、結局触れずに頬に添えた。
「……そういえば、お互いにメイクをしたと、白石は言っていたな」
「ん? ああ、そうだったか」
発端となった日のことだろう。確かにそんなことを言っていた気がする。
「なら、彰人のメイクは俺がしたい」
「……は」
今度こそ冬弥の頬に色を乗せようとしていた手が止まる。それを気配で感じたのか、冬弥が目を開ける。至近距離、きらきら揺れるアイスグレー。
「歌うときの彰人はとてもかっこいいから。彰人も認めてくれた俺のメイクで、彰人をもっと魅力的にすることができるなら、気分がいいだろうと思ったんだ」
そんなことを、楽しくて仕方ないって微笑みで口にするから。
「……おー。んじゃ頼むわ」
「任せてくれ。……すまない、邪魔をしたな。続きをしてくれ」
ふたたび目を閉じた冬弥は、さっきより機嫌が良い。ブラシを持った手に冬弥の息がかかって、距離の近さに今更気付いて唾を飲み込む。
冬弥にメイクされるってことは、目閉じたオレの至近距離にこいつの顔があるってことだよな。そのときの自分がどうなっているのかを少し不安に思いつつ、オレはメイクすることへ意識を向け直した。
3525文字,
2025.06.22 10:00
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そもそもの始まりは、オレが気付いてしまったことだった。セカイのカフェで合流したとき、こはねの印象がいつもと違う気がしたから。
丸テーブルの向かい側、背を屈めて軽く顔を覗き込もうとする。
「……し、東雲くん?」
「ちょっと彰人、何こはねにちょっかいかけようとしてんの!?」
ばしん。頭に鈍い衝撃が走って、オレの顔は強制的に下を向かされる。誰がやったかなんて、考えるまでもない。
「お前……」
起き上がったオレは当然杏を睨むが、当人はどこ吹く風だ。まぁ、でも、違和感の理由はわかった。叩かれる一瞬前、目元が淡くきらめいたのが見えたから。
「悪いこはね、なんかいつもと違えなって思ったから。メイクしてんだな」
疑問が解決したからと手元のセトリに戻そうとした意識は、テンションの高い声に引き戻される。
「そう! かわいいでしょ!? さっきあんたたちが来る前に二人でメイクしあってたんだよねー!」
横から抱きついた杏がこはねに頬を寄せる。並んだのを見れば、確かに似たようなパール感の色違いをまぶたに乗せているのがわかる。
いわく、どこかのアイシャドウの限定色がこはねに似合いそうで、しかもパッケージがハムスターイメージときて、どうしてもこはねに使いたくなったらしい。
「昼休みに瑞希が見せてくれたんだけどさ、私に似合いそうなのもあるって言うから。だったらお互いにやりたいなって。ねーこはね?」
「うん、人気だって聞いたから手に入らないかと思ったけど、近くで買えてよかった。フォトコンテストのときの青柳くんと遥ちゃんを見てたから、私もちょっとやってみたかったんだ」
こはねの言葉にオレの隣の冬弥が小さく微笑む。
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。……しかしそうか、暁山が楽しそうに白石に会いに行くと言っていたのはそれだったのか」
なるほど、と冬弥が頷く。あいつ確かに今日は昼からいたな。学校来る目的が勉強じゃねえのかよ。自分も勉強は好きじゃないことを棚に上げて考えていると、杏が妙なことを言いだした。
「でさ、さっき話してたんだけど。そのうちイベント出るとき四人でメイクしてみない?」
「……は?」
何言ってんだこいつは。反射的に声に出た。
「限定品とかって色々コンセプトあるでしょ? イベントとか曲のイメージに合ったときとかさ、意識してみるのもいいんじゃないかなって!」
楽しそうな提案の途中、オレははっと気付いて隣を伺う。何せ、そこにいるのは好奇心の塊なのだ。果たして。
「それはとても興味深いな……!」
オレは頭を抱えそうになった。
わかってた、こういうヤツだ。オレの相棒は、初めての経験に興味津々だった。こうなったらもう、アレだ。ほら、俯いたオレを冬弥がチラチラ見ている。わかってるよ、オレはお前に弱いんだ。だから、
「彰人……駄目、だろうか……」
***
つーわけで、やるとなったら中途半端は性に合わねえ。オレらも有名になってきたし、ナメられないためにも見た目も強くしておくのも悪い手じゃないだろう。もちろん、一番は歌でわからせてやることだが。
幸いウチには姉貴の私物っつー参考資料もあるし、メイクは専門外でもコーディネートにはそれなりに自信もある。目的に合わせて演出するって意味じゃ考え方は近いはずだ。
オレが選んだ服、あの白い肌、綺麗な顔の作りを活かすなら。
「よし、やるぞ」
ベッドに座らせた冬弥の前、オレはアイシャドウブラシを構えていた。
「よろしく頼む……?」
冬弥はどこか戸惑っている。最初渋りそうだったオレがここまでやる気になったらそうなっても当たり前だろうが。オレは横に置いたパレットを確認して、冬弥に向き直る。
下地はすでに塗らせた。っつっても、こいつの肌は白くてきめ細やかで、必要ねーんじゃねーかってくらい綺麗だ。
「んじゃ、触るぞ」
一言落として、冬弥の頬に手を添える。下から覗き込んだ相棒の表情が変わった。目を伏せる一瞬、多分オレしか気付かない、ほんのわずかな色。
――そういうことかよ。ほんのひとしずく未満のさみしそうな瞳に、オレは何度呼んだか知れない名前を口にした。
「とーや」
ブラシを当てようとした手を下ろして、ひとつ息を吐き出す。
「別に、お前のメイクが駄目ってわけじゃねーからな」
「……え」
開かれたアイスグレーがオレを見る。そんなん、当たり前だろーが。
そもそも、こいつは自分でしたメイクでフォトコンテストに入賞したんだ。冬弥の表情はもちろん、こはねの写真も良かったにしても、メイクの協力者はあの桐谷だ。オレにあのトレーニングメニューを組んできた桐谷の教え方で、この勉強熱心な真面目バカが取り組んだらどうなるか。写真を見てなくたって、質がいいものになるのはわかりきっている。
「まぁ、専門外のオレがどうこう言えたもんじゃねえけど。でも桐谷にも暁山にも褒められたんだろ。そのお前のメイクが良くなかったわけあるかよ」
そこまで言い切ると、冬弥は顎に手を添えて首を傾げた。
「……では、なぜ彰人は俺にメイクをしてくれようとしているんだ?」
「そんなもん決まってんだろ」
本当にこいつはオレがメイクにもの申すためにやろうとしてたと思ってたんだろうか。理由なんて、その他にいくらでもある。
「メイクってのも要するに外見をどう見せるかって話だからな、ある意味コーディネートの延長線上みたいなもんだ。で、お前の服選んでんのはオレだろ。それなら無関係でいたくねえ」
だから、オレも冬弥のメイクをしてみたかった。まっすぐに冬弥の目を見て言う。
「……っつっても、さっきも言ったが、少しは調べはしたがオレはメイクは専門外だからな。実際自分であんだけやったお前よりはできねえと思う。なんかちげーなとか嫌だなって思ったら容赦なく言えよ。お前に我慢させてまでやりたいわけじゃねえから」
頼りにしてるぞ、相棒。オレの言葉を受け止めた冬弥は、目に見えて嬉しそうに表情を輝かせる。
「そう言ってくれるなら、彰人に任せよう。出来上がりを楽しみにしている」
「ん。じゃあ目ぇ瞑れよ」
ああ。小さな相槌のあと、銀色が見えなくなって、長いまつげの影が落ちる。そっと、白い頬に手を添える。
コーディネートの延長線上、だから無関係でいたくない。冬弥に言ったことは本当だ。だけど、それだけでもない。
冬弥は綺麗だ。本人に自覚はなさそうだが学校でもモテてるし、イベントに来てくれるファンの中にだって容姿を見てるヤツらはいる。ましてあんなコンテストに入賞して、メイクでもっと綺麗になることも、それが評価されることも証明されてしまっている。
その冬弥がメイクをするっていうなら。もっと綺麗になるなら、それで注目を浴びるなら。その冬弥はオレが手を加えた冬弥であって欲しい。冬弥をより魅力的にしたのはオレだって、こいつを見るヤツら全員に思い知らせてやりたい。歌やコーディネート以外のことでも、ぜんぶ。
冬弥は目を閉じて、オレに頬を触らせている。全幅の信頼だ。お前の相棒がこんなどろどろしたもんを抱えてて、何されてもおかしくない状況だってのも知らずに。
艶やかな唇に親指を近付けて、結局触れずに頬に添えた。
「……そういえば、お互いにメイクをしたと、白石は言っていたな」
「ん? ああ、そうだったか」
発端となった日のことだろう。確かにそんなことを言っていた気がする。
「なら、彰人のメイクは俺がしたい」
「……は」
今度こそ冬弥の頬に色を乗せようとしていた手が止まる。それを気配で感じたのか、冬弥が目を開ける。至近距離、きらきら揺れるアイスグレー。
「歌うときの彰人はとてもかっこいいから。彰人も認めてくれた俺のメイクで、彰人をもっと魅力的にすることができるなら、気分がいいだろうと思ったんだ」
そんなことを、楽しくて仕方ないって微笑みで口にするから。
「……おー。んじゃ頼むわ」
「任せてくれ。……すまない、邪魔をしたな。続きをしてくれ」
ふたたび目を閉じた冬弥は、さっきより機嫌が良い。ブラシを持った手に冬弥の息がかかって、距離の近さに今更気付いて唾を飲み込む。
冬弥にメイクされるってことは、目閉じたオレの至近距離にこいつの顔があるってことだよな。そのときの自分がどうなっているのかを少し不安に思いつつ、オレはメイクすることへ意識を向け直した。