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それは合図になる
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「っし、こんなもんか」
俺の髪に触れていたあたたかい手が離れる。ローテーブルに置いた鏡に映る俺の髪は、右側を編みこまれて項のところでまとめた形に整えられていた。後ろには満足そうな顔をした俺の恋人。
「ありがとう、彰人。出掛ける前にすまない」
「オレが冬弥に触りたくてやってんの」
ぽん、セットしたばかりの髪型を崩さない程度に頭を撫でられ、そのやさしさと言葉に込められた熱に面映ゆい想いがあふれる。道具を片付ける音を聞きながら、編みこまれた髪に触れる。丁寧に施された凹凸を感じて、ほうっと息を吐く。
「俺も触れられるのは嬉しい」
そう落とした直後、不意に感じた衝撃と温度、視界に映るオレンジ色。気付けば俺は彰人の腕の中にいた。後ろから肩に顎を乗せられ、視線は鏡越しに鶸色に絡めとられる。
「急にどうしたんだ」
胸元に回された腕に触れながら言うと、彰人は俺に頭を摺り寄せてくる。
「エロい顔してた」
「っ……」
耳元で紡がれる、低く落とされた声。朝に似つかわしくないそれに囚われてしまいそうで、腕から逃れようと身を捩る。たくましい腕は、当然のように俺を離してはくれない。
「なぁ冬弥、なんで?」
「それは…彰人に触れられたら多少は」
「嘘つけ、今『バレた』って顔したろ。……何考えてた?」
いつも俺を熱くさせる声が、俺を追い詰めるためだけに落とされる。本当に自覚はなかった、それでも、今はしたない顔をしてしまっていたとしたら。
「……整えられた髪が崩れる時のことを考えていた」
伝えてしまってから、頬が熱を持つ。俺の髪が解かれるのは、その大きな熱い手によってに他ならない。この綺麗な編み込みも、そうやって崩されるのかと考えてしまった。
例えば、口を塞がれながら頭を掴まれた時。押し付けられたソファやベッドに擦れた時。項に下りた手が髪留めを外して、編み込みごと手櫛で撫でられた時。それらが何に至る行動か、当の彰人にわからないはずがない。
「っはーーーーー……………」
長く吐き出された吐息が髪を揺らす。彰人の頭がずるずると動き、気付けば額を肩にこすりつけられていた。相棒の行動が読めない俺は戸惑うことしかできない。
「……よし」
何か決意を感じる声と同時に顔が持ち上がった、かと思えば、彰人の手は丁寧に俺の髪をほどき始める。手櫛でゆるめられた編み込みにはしっかりと櫛が通され、青色は元のまっすぐな状態へと戻った。
「彰人、そろそろ出掛ける時間じゃ、」
「いーから座ってろ」
器用な指先は先ほどと同じように俺の頭の側面に編み込みを作っていく。同じことをするのなら何故解いたのだろう、そう考える間に編み込みを終えた手は、今度は反対側にも編み込みを作っていく。
「彰人?」
名前を呼んでも反応はなく、俺の頭にはどんどん編み込みが作られていく。両側から編まれたそれは後ろに残してあったらしい束と合わせてまとめられ、先ほどまでと同じように項で留められた。
「うし、できた。んじゃ行くな」
「あ、あきと」
俺の髪をいじり終えた彰人は横に置いていたバッグを肩に掛け、さっさと玄関に向かってしまう。少し遅れて立ち上がった俺が追いついた時には、彰人は靴を履いてつま先を鳴らしているところだった。俺が前に立ったことに気付くと、顔を上げて鶸色がこちらを見る。伸びてきた手が先ほどまではなかった編み込みに触れる。
「それ。両側に作ったから、見える回数増えるだろ」
崩されること考えるっつーなら。
洗濯機の横の洗面台で。風呂掃除するときに洗い場で。買い出し行った先のショーウインドウで。今までの倍、見えるようになるから。
「意識しろよ。そんで」
帰ったらじっくり崩してやるから、覚悟しとけ。
「……そのつもりなかったとか、言わねえよな?」
耳元に直接注がれた声は湿り気を帯びている。それに弱いことをわかってやっているのだから、俺の恋人は意地が悪い。そんなところまでかっこいいと思ってしまうのだから、心底惚れているのだと改めて感じてしまう。
「……待っている」
それだけ告げると、目の前の彰人は不自然に口を開いたあと、何かを堪えるように目と口を同時に閉じた。 頭の後ろをがしがしとしてから、鶸色が俺をねめつける。
「ほんっと覚えとけよ」
その言葉を最後に俺に背を向けた彰人は、いつもより少し乱暴に玄関の扉を閉めて出て行った。手を伸ばして鍵を閉めて、ふと玄関横の姿見に映る自分の姿に気が付く。いつもと反対側に見える編み込み。
「……本当に、ずっと意識してしまうな」
胸を満たす幸せな甘さは、焦がれる人の名前となって唇から零れ落ちた。
1971文字,
2025.06.22 10:00
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「っし、こんなもんか」
俺の髪に触れていたあたたかい手が離れる。ローテーブルに置いた鏡に映る俺の髪は、右側を編みこまれて項のところでまとめた形に整えられていた。後ろには満足そうな顔をした俺の恋人。
「ありがとう、彰人。出掛ける前にすまない」
「オレが冬弥に触りたくてやってんの」
ぽん、セットしたばかりの髪型を崩さない程度に頭を撫でられ、そのやさしさと言葉に込められた熱に面映ゆい想いがあふれる。道具を片付ける音を聞きながら、編みこまれた髪に触れる。丁寧に施された凹凸を感じて、ほうっと息を吐く。
「俺も触れられるのは嬉しい」
そう落とした直後、不意に感じた衝撃と温度、視界に映るオレンジ色。気付けば俺は彰人の腕の中にいた。後ろから肩に顎を乗せられ、視線は鏡越しに鶸色に絡めとられる。
「急にどうしたんだ」
胸元に回された腕に触れながら言うと、彰人は俺に頭を摺り寄せてくる。
「エロい顔してた」
「っ……」
耳元で紡がれる、低く落とされた声。朝に似つかわしくないそれに囚われてしまいそうで、腕から逃れようと身を捩る。たくましい腕は、当然のように俺を離してはくれない。
「なぁ冬弥、なんで?」
「それは…彰人に触れられたら多少は」
「嘘つけ、今『バレた』って顔したろ。……何考えてた?」
いつも俺を熱くさせる声が、俺を追い詰めるためだけに落とされる。本当に自覚はなかった、それでも、今はしたない顔をしてしまっていたとしたら。
「……整えられた髪が崩れる時のことを考えていた」
伝えてしまってから、頬が熱を持つ。俺の髪が解かれるのは、その大きな熱い手によってに他ならない。この綺麗な編み込みも、そうやって崩されるのかと考えてしまった。
例えば、口を塞がれながら頭を掴まれた時。押し付けられたソファやベッドに擦れた時。項に下りた手が髪留めを外して、編み込みごと手櫛で撫でられた時。それらが何に至る行動か、当の彰人にわからないはずがない。
「っはーーーーー……………」
長く吐き出された吐息が髪を揺らす。彰人の頭がずるずると動き、気付けば額を肩にこすりつけられていた。相棒の行動が読めない俺は戸惑うことしかできない。
「……よし」
何か決意を感じる声と同時に顔が持ち上がった、かと思えば、彰人の手は丁寧に俺の髪をほどき始める。手櫛でゆるめられた編み込みにはしっかりと櫛が通され、青色は元のまっすぐな状態へと戻った。
「彰人、そろそろ出掛ける時間じゃ、」
「いーから座ってろ」
器用な指先は先ほどと同じように俺の頭の側面に編み込みを作っていく。同じことをするのなら何故解いたのだろう、そう考える間に編み込みを終えた手は、今度は反対側にも編み込みを作っていく。
「彰人?」
名前を呼んでも反応はなく、俺の頭にはどんどん編み込みが作られていく。両側から編まれたそれは後ろに残してあったらしい束と合わせてまとめられ、先ほどまでと同じように項で留められた。
「うし、できた。んじゃ行くな」
「あ、あきと」
俺の髪をいじり終えた彰人は横に置いていたバッグを肩に掛け、さっさと玄関に向かってしまう。少し遅れて立ち上がった俺が追いついた時には、彰人は靴を履いてつま先を鳴らしているところだった。俺が前に立ったことに気付くと、顔を上げて鶸色がこちらを見る。伸びてきた手が先ほどまではなかった編み込みに触れる。
「それ。両側に作ったから、見える回数増えるだろ」
崩されること考えるっつーなら。
洗濯機の横の洗面台で。風呂掃除するときに洗い場で。買い出し行った先のショーウインドウで。今までの倍、見えるようになるから。
「意識しろよ。そんで」
帰ったらじっくり崩してやるから、覚悟しとけ。
「……そのつもりなかったとか、言わねえよな?」
耳元に直接注がれた声は湿り気を帯びている。それに弱いことをわかってやっているのだから、俺の恋人は意地が悪い。そんなところまでかっこいいと思ってしまうのだから、心底惚れているのだと改めて感じてしまう。
「……待っている」
それだけ告げると、目の前の彰人は不自然に口を開いたあと、何かを堪えるように目と口を同時に閉じた。 頭の後ろをがしがしとしてから、鶸色が俺をねめつける。
「ほんっと覚えとけよ」
その言葉を最後に俺に背を向けた彰人は、いつもより少し乱暴に玄関の扉を閉めて出て行った。手を伸ばして鍵を閉めて、ふと玄関横の姿見に映る自分の姿に気が付く。いつもと反対側に見える編み込み。
「……本当に、ずっと意識してしまうな」
胸を満たす幸せな甘さは、焦がれる人の名前となって唇から零れ落ちた。